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第3回
伊那谷「ものづくり」の現在と未来【上】

第3回<br>伊那谷「ものづくり」の現在と未来【上】

 伊那毎日新聞創刊50周年企画「上伊那経済時事対談」の第3回。テーマは、伊那谷「ものづくり」の現在と未来。
 斬新なアイデアで、次々とユニークな工作機械を開発・製造するミカドテクノス(本社・箕輪町)の伊藤英敏社長と、電子情報システムの最先端とも言える組込リナックスを使用して、工作機械の電子制御の分野で注目を集め始めているインターブリッジ(本社・伊那市)の丸地弘城社長。親子ほど離れた2人に「ものづくり」にかけた思いを語り合っていただいた。
【司会・毛賀沢明宏】

展示会での出会いから始まったジョイント

第3回<br>伊那谷「ものづくり」の現在と未来【上】

司会 世界経済のグローバル化に伴い、伊那谷の製造会社のあり方が変化してきています。ガリバー的な大手メーカーの下に地域の部品加工会社が協力会社として系列化されているという時代は基本的に終了し、地域の製造会社は、大別して、(1)独自のアイデアと技術で完成品を製造販売するメーカーへの脱皮を図るか(2)特殊な技術を活かし、試作・小ロット生産の対応力を高めて、取引きするメーカーを拡大していくか窶狽フ2つの方向に今後の道を求めているように思えます。
 ミカドテクノスさんとインターブリッジさんは、独自のアイデアと技術で完成品を売り出していこうという(1)の部類に入ると思いますが、自己紹介を兼ねて、現在どんな「ものづくり」に打ち込んでいるか窶矧ネ単にお話しください。
伊藤 ミカドテクノスの伊藤です。1953年に父、故・一二(いちじ)が創業した当時は深絞りプレス加工の会社でしたが、私が入社した67年以降は、省力化機械や専用機の開発・製造の仕事に重点をおいてきました。近年は、03年10月に特許を取得した瞬時真空ヒータプレスの製造販売に力を注ぎ、今年からはその発展形とも言える真空高圧含浸充填機の開発製造を進めています。こちらは先日特許を出願しました。
司会 それらはどういう機械なのですか?
伊藤 真空ヒータプレスは、加工空間を瞬間的に真空にしてその中で熱を加えたりしながらプレス加工を行う機械です。積層フィルムを気泡をつくらず貼り付けしたり、金属や樹脂を圧着接合させたり、微細なパターンを熱転写するなど、様々な用途に使用されています。真空高圧充填機は、真空プレスの技術の応用機で、金属部品に開けた細い穴の中など、空気中だと気泡が溜まっていて、別の素材を充填し難いものや、金属表面に凹凸があって皮膜をつけたりすることが難しいものを、真空中で簡単にやってしまおうという機械です。
司会 丸地さん、おねがいします。
丸地 インターブリッジの丸地です。当社は03年に設立で3年目を迎えました。私自身ある大手メーカーで基礎研究をしていたのですが、その経験を活かして、工作機械の自動制御装置を、従来のマイコンやパソコン、サーバーを使用した大型のものから、超小型のインターネットサーバーを利用した小型で安価なものに作り変える仕事をしています。ほとんどがお客さんの相談を受けて、その会社にふさわしいものを研究開発して、組み込んでいく仕事です。OS(注・コンピューターを動かすための基本ソフト)には、従来のものとは違って、誰もが自由に使えるリナックスというソフトを使用していますので、費用がかなり節約でき、お陰様で、地元の製造業社や、信州大学、情報試験場などで仕事をさせていただいています。
司会 伊藤さんは、丸地さんの自動制御の技術にかなり関心をお持ちで、親子ほども年が離れた丸地さんに工作機械の開発で、一緒に仕事をしようと持ちかけたそうですね?そのいきさつや動機をお話しいただけませんか?
伊藤 あんまり「親子ほど」って強調しないでください。ものづくりでは僕もかなり気持ちが若い方なんだから(笑い)。ジョイントの馴れ初めは、05年春に東京新宿で開かれた製造業の展示会なんです。伊那毎さんも取材に来てましたね。そこで、ウチのブースの前に丸地さんが自動制御のロボットの模型を出展していた。僕は電子制御のことはあまり詳しくないけれど、なにか面白そうなものを作っている。それにまだ若いのに起業して、なんとかチャンスを物にしようという熱意が感じられた。それで、少し一緒にやってみようと思ったんです。じつは僕も、スタートはそんな風だったからね。
司会 それで初対面で、なんと言って声をかけたんですか?
伊藤 「そのロボットはよく出来てるが、チョット動きが遅すぎる。もっと速くしないと見栄えがしないぞ」って。展示会は最先端技術を見せるところだから、誰かがその上を行くものを展示するかも分からないし、製造業の現場はスピードも重要な要素だからね。丸地さんは前向きに聞いてくれたが、そのとなりのブースにいた人は「変な親父が難癖つけてきた」ってな顔をしていたよ(笑い)。

チームで進める「ものづくり」の楽しさ

第3回<br>伊那谷「ものづくり」の現在と未来【上】

司会 そう言われて丸地さんはどう思ったんですか?
丸地 なにか最初は緊張していて、良く覚えていないんですよ。
 展示会場での機械説明とその加工品を見せていただき、すごく完成度の高い機械だなと思ったんです。こういうものを作る方に声をかけていただいた窶狽ニ思うと、かなり固くなりまして……。
伊藤 最初のうちは一緒にやろうと言っても、やるのかやらないのか、グズグズしてたんだ。それで、「あなたにとって決して悪いことにはならないから、俺を信じてついて来い」って言ったんです(笑い)。
司会 中小企業がジョイントすることに大きな利点があると以前から考えていたからですか?
伊藤 もちろん。丸地さんにも言ったんだけど、ものづくりの中小企業は、たいてい1つの特技を持ってそれで歩き始めるけど、じつはその先が長い。そこで同じ志向を持つ中小企業同士がジョイントしてネットーワーク化することが重要だ。それぞれの持っているシーズ(提供できる技術)を出し合って新しいシーズを開拓するだけでなく、共同してニーズ(技術を生かす用途、またそれを求めている顧客)を探すことが重要だと、かねがね思っているからね。
丸地 それで、一緒に仕事をさせていただくようになったんですが、ミカドさんの機械は完成度が高いし、当然会社の技術力も高い。瞬時真空プレスは世界一流の発想と完成度ですよね。そういう会社の人とお話ししていると、自分は電子情報が専門ですから、自分では考えもつかなかったようなアイデアに出会うことが出来る。「メカニック的にはこういうことが出来るから」と、今まで自分では考えもしなかったような仕組みを提示された上で、「それを制御する電子情報システムは作れないか?」と質問されると、自分の頭も刺激されて、新しいアイデアが出てくることが多いんです。
司会 なるほど。差し障りのない限りで結構ですので、どんなものを共同開発しようとしているのか、話していただけませんか?
伊藤 丸地さんに参加してもらっている産学官共同のプロジェクトでは、プレスするための上型を取り付ける移動台を、自動制御して常に並行移動できるようにしたり、その都度製品の形状に合わせて傾斜移動できるような装置を開発しようとしています。これからはいろいろな電子部品がどんどんとカード化されていくと思う。そうすると薄いフィルムの間にいろいろな素子が入ったカードをプレスして作ることが問題になる。間にいろいろ挟まるから、カードをプレスする台は微妙に、つまり100分の5とか100分の1ミリの単位で、斜めになったりする。そういう傾きなどを自動的に検出し、是正しながらヒータ加圧することが必要になってくると思うんです。その電子制御部分をインターブリッジに挑戦してもらっているんだよ。
丸地 いま伊藤さんはカードを張る例を出されましたが、じつは、それはほんの一例だと思うんですよ。真空の中で、いろいろなものに熱を加えたり、冷やしたりしてプレス加工しようというのが真空プレス機ですが、その型台を電子情報で自動制御させながら動かすことができたら、その使用用途はかなりいろいろな領域に広がると思うんです。真空の中で何かを自由に押したり、固めたりできるって、それだけでなにかとても楽しいことだと思いませんか?
伊藤 そう、それが何に使えるか?窶狽ヘお客さんに考えてもらえばいいんですよ。(続く)

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