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第3回
伊那谷「ものづくり」の現在と未来【下】

第3回<br>伊那谷「ものづくり」の現在と未来【下】

 「上伊那経済時事対談」の第3回は、伊那谷の「ものづくり」の現在と未来。ミカドテクノス(株)(本社・箕輪町)の伊藤英敏社長と、(有)インターブリッジ(本社・伊那市)の丸地弘城社長。05年春から新たなアイデアにもとづく工作機械の開発を共同して進めている2人は、「ものづくり」の発想やアイデアの展開などについて語り合う。
【司会・毛賀沢明宏】

特色ある技術へのこだわりと展開

第3回<br>伊那谷「ものづくり」の現在と未来【下】

(承前)
司会 2年間続いた「輝く!経営者キャンペーン」でお話しをお聞きした時にも、伊藤社長はよく、「こんな面白い作り方ができる」ということを考えるのが自分の仕事で、それをどう活用するかはお客さんに考えてもらうんだ窶狽ニおっしゃっていましたよね。それを「シーズを持ってニーズを探す」とも表現されていたと思います。丸地さんもそういう考え方に同感なんですか?
丸地 私もミカドテクノスの社長さんがおっしゃるのを度々耳にしています。もちろん、さっき述べたような瞬時真空プレスの新しい自動制御システム(注・前日号参照)が、いったい何に使えるかは、私には考えつきません。でも、伊藤さんは、じつはもう何に使えるかのアイデアをどこかに持っておられるんじゃないかと思うことがあるんです。それは正直なところどうなんですか?
伊藤 う縲怩Aそうだねぇ……。ないといえばないし、あるといえばある(笑い)。さっきもフィルムの例を出したけど、一般にはプレスで押して張りつけるというと、みんな固いシートとかフィルムみたいな物を考えると思う。でも、例えば豆腐とかコンニャクのようなクニャクニャしたものを、押す角度を自動制御しながら押して、それに熱を加えたり、冷やしたり、別のガスの中に満たしたりしたら、何かおもしろいものができないかな?そういう用途に、なにか使えそうだな。このシステムはそういうのに最適だな窶狽ニいうくらいのアイデアはあるんです。でも、ではそれで、何を作ることが出来るんか?と聞かれると、それはやっぱり解らない(笑い)。
司会 同じ質問を繰り返して恐縮なんですが、伊藤さんのお話しを聞いていると、いつも、なにかとても興味深い・楽しい作り方の仕組みを考えることで頭が占められていて、それを何に使うかはその後考えるというようになっているように感じるんですね。ひょっとするとそれが「ものづくり」の極意なのかもしれないなと門外漢の私などは思ったりするのですが、丸地さんはそんなところはないですか?
丸地 当社の場合は、お客さんから「ここのこういう制御の仕組みは改良できないか」というようなご相談をいただいて仕事をすることが多いですから、たいていの場合、用途は最初からはっきりしているんです。でも、それに答えてシステムを作っているうちに、「あ、これは別の用途にも使えそうだな」と思う汎用性のあるシステムがひらめく時があるんです。そういう時は、「何に使えるか」は解らないですよね。でも「何かに使えそうだ」とワクワクする。伊藤社長がおっしゃるのはそういうあたりだと思うんですが……。
伊藤 まぁ結局そういうことなんだろうね。アイデアとか技術とか言ってもいろいろなレベルのものがある。ウチの会社は、これまでに百いくつもの特許を取得しているけれど、その中には、何か特定の物をつくるための、その速さを速くしたり精度を上げたりする、その限りのためのものもある。でも、中には、もっといろいろなことに応用できる汎用性のあるアイデア・技術もある。そういうものの場合には用途は後から出てくることが多い。
司会 瞬時真空プレスのほかに具体例を上げると、どんなものがありますか?
伊藤 真空プレスの発展形とも言えるけど、今、僕が熱中しているのは、真空高圧含浸充填装置。真空の中でプレスするんじゃなくて、細かい穴の空いたものや表面がざらついた物を真空の中において、それに別の素材を詰め込んだりしみ込ませ、その上でさらにそれに圧力をかけて押し込む装置を考えています。
 で、これが、いったいに何に使えるか?いろいろあるんだけど、例えば、野菜をね、真空中で表面を少しだけ乾燥させて、煮汁の中に漬け込んで、少し高圧をかけてやればきっと奥まで味が染み込むはずだ。そして今度は圧力をかけた状態でヒーターで煮沸してやれば圧力釜で煮たことと同じになる。そうすると、カボチャの煮っ転がしなんかは短時間でできるし、いろいろな味付けができるかもしれない。まぁ、こういうようなことを考えて、どこか食品メーカーの人に話してみて、この利用法を見つけてくれないかな窶狽ニニーズを探すことになる。
丸地 カボチャですか?それは考えてもみなかったな。でもだったらフライドチキンでもいけそうですね。
伊藤 そうそう、機械制御以外に、野菜の重さ、漬ける液の状態、仕上げの温度管理、出来上がり後の保温などを、組込リナックスで自動制御する。かなり高い値段の空揚げ機になっちゃうかもしれないけど、誰も味わったことのない味ができればいい(笑い)。

シーズをもってニーズを探す

第3回<br>伊那谷「ものづくり」の現在と未来【下】

司会 今回の対談の基本的な論点である「地方の中小企業がジョイントして技術開発を進める必要がある」ということに戻ると、結局、機械製造なり電子情報なり、特定の技術を持っている会社がジョイントすれば、新たなシーズの開発でも、新たなニーズの探し出しでも、1+1が2以上になる発想の広がりが出てくるということなのでしょうか?
丸地 私のテリトリーの話に引っ張ってしまうので恐縮なんですが、じつは当社が使用してリナックスというオープンベースのOSはそういう発想で世界中の技術者の共同事業として作り出されているんです。ソフトウエアは従来特定の会社が開発して、それを利用者が使用料を払って使用するという構造の中にありました。だからそのソフトをどう作ったかは厚いベールに包まれていた。でもリナックスの場合には、一定のルールの下に、どのように作ったかを公開し、誰でも自由にそれを利用して発展させられる。そのことによってシーズもニーズも急速に発展して、コンピューターソフトを人々の身近なところに引き寄せることが出来たと思うんです。そういう発想が、地方の製造業にも必要だと思います。
伊藤 地方の中小企業が技術開発を進めるのは、今までは財源的にも人材的にも大変なことだったわけです。結局技術開発は大手がやってきた。その大手が海外に製造拠点を移したため恩恵を受けていた中小企業は生きていけない状況になってきた。今は地方の中小企業でも、新しい技術を持ち、特許の1つや2つ持ってなければ売り込みにいっても相手にされないような状況だ。だから、いろいろな知恵や発想を集めなければいけない。母校の千葉工業大学で臨時講師をしていた時によく学生に「1+1=2の固定概念を捨てること」を講義した。2の導き方を質問すると、3マイナス1という人もいれば4マイナス2というのもいる。100引く98というのもいる。違う発想やヒラメキと出会うことが新しい創造性の原点なんだと思うよ。
丸地 ミカドテクノスさんは一緒に仕事をさせていただいて、30人ぐらいの従業員数で、一見変哲のない町工場に見えるんですけど、ものすごい知識集約型の会社なんですよ。大量生産・大量消費時代のように、どこでも出来るものを安く・速くという労働集約型の仕事では、結局、アジア諸国などにキャッチアップされてしまう。どこにも真似できないものを生み出す、生み出しつづけるという知識集約型の仕事が出来るようにいろいろな業種の企業が力を合わせることが重要なのだということを、一緒に仕事をさせていただいて毎日痛感しています。
伊藤 ベンチャー企業としての目標は、特化した分野で、世界でずっと勝負できるシーズを持つこと。それが一番素晴らしいのだと思っています。言い換えれば僕は、そういう一貫した技術は作り出せなかったので、色々の分野に数で勝負せざるを得なかった。でも、その都度、お客さんが直面している問題を一緒に考えて、信頼を受け、技術の幅を広げてきた。1人ではアイデアは浮かばないし、技術は開発できない。国内外の国際見本市に出品し続けて30年以上経つけど、この間に知り合ったあっちこっちの会社に行って「こういうことができるんだけど何か使えませんか?」とか「こういうこと困っているので考えてくれない?」などと言い合いながら話し込み、そうやって、いろいろとアイデアと技術の引出し方を訓練して増やしてきたと思うんだよね。これからは世界との競争だから、地方の中小企業のアイディアや技術のジョイントはますます重要になるだろうと思うし、丸地さんのような若くて意欲的で、柔軟な発想が出来そうな若い世代ともどんどんと協力の輪を広げていきたいと思っています。宜しくお願いします。
丸地 いえ、こちらこそよろしくお願いします。
司会 ありがとうございました。

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