JAZZを志し渡米。25年間に及ぶニューヨーク生活を経て帰郷した
伊那市山本町
木下恵二さん(53)
自分の感性で作り上げた曲でも、コードと曲の長ささえ合えば、誰とでもセッションできる。それはジャズの魅力の一つだよ竏秩B
100年近く続く老舗のそば屋に生まれたが、ジャズを続けたい竏窒ニ、家を飛び出したのは25年前。行き先に選んだニューヨークは、学生時代に放浪した街の中で最も波長が合う街だった。「ニューヨークには自分の目標をやり遂げようとする人が集まってくる。自分もここで何かやってやろう竏秩Bそう思ったんだよ」と振り返る。
情熱を持って飛び込んだ新天地。しかし当時、持っていったものといえばサックスとリュックサック一つだけ。生活の糧を得るためには、職に就かなければならず、現地のすし屋で働き始めた。日本を象徴するものの一つでもあるすしの人気は高く、毎日が忙しかった。しかし、その一方でジャズの練習時間が裂かれ、芸を全うできないことへのジレンマもあった。もっぱら一人での練習を重ねながら、いろんな人と即興演奏をするジャム・セッションに参加する日々の繰り返し。「売れないやつは、みんなそうやって自分をアピールして、拾ってもらうんだよ」と笑う。
音楽だけでなく、絵でも演劇でも、さまざまな分野で上を目指そうとする人が、ニューヨークには集まっていた。無名であれ有名であれ、何かの形で自分を見出そうという情熱が活気となり、そこかしこに溢れていた。
「ニューヨークっていうのはすごいまちでね。日本で少し名の知れたような人ですら、別の仕事を持たないと生活していけないってことがざらにある。今ではジャズの神様とも言える人たちとも、すし屋で一緒に働いたよ。自分と志を同じくする仲間と働く生活は楽しかった」
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家族のこともあり、今年6月、帰郷することを決めた。がらりと変わった街並みや、ニューヨークでの生活との違いには戸惑いを隠せない。
今は次にすべきことを模索中で、慣れ親しんだサックスだけでなく、クラリネットの練習も始めた。構想がまとまり次第、帰国演奏会を開きたい竏秩Bそんな思いも巡らせる。
「旧友からも、不景気な話しか聞かないから、何か元気が出ることをしたいって考えている。音楽でここまで人生が狂っちゃったんだから、死ぬまで笛は吹き続けたいと思っているけどね」
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9日の午後7時からいなっせで開く「チベット古典音楽コンサート“羽衣”」は、ニューヨーク時代の旧友・トシ・クガさんの来日コンサート。多くの来場を呼びかけている。
「一緒に演奏するパッサン・ドルマさんは、天女の声とも称されている。日本でいう馬子歌のような響き。多様な文化の一つを知ってほしい」
チケットは前売り800円、当日千円。
問い合わせ・チケット販売はあびえんと(TEL78・0899)へ。