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ニュース

特別企画
伊那谷 森の座談会
農と食のあり方を考える【上】
-団塊世代の大量退職時代を前にして-

出席者
●伊那食品工業(株)会長
塚越寛さん
●産直市場グリーンファーム代表
小林史麿さん
●長野県農政部長
田山重晴さん
●上伊那地方事務所長
牛越徹さん
司会 毛賀沢明宏

特別企画<br>伊那谷 森の座談会<br>農と食のあり方を考える【上】<br>-団塊世代の大量退職時代を前にして-

 日本農業は大きな転換期を迎えている。農業生産物の国際競争力の低下は農業振興に深刻な影を落し、少子高齢社会の到来は既に深刻化している農業の後継者不足にさらに拍車をかけると予測される。
 こうした中、国は近年、従来の減反政策を実質的に継承したまま、水稲一辺倒の姿勢を転換し多様な換金作物の栽培奨励に乗り出す一方、集落営農方式を中心とした農業集団化を進めようとしている。だが、こうした施策で、はたして地域の特色を生かした農業振興が図れるのか?-という疑問の声も多い。
 また、敗戦直後に生まれたいわゆる団塊の世代が、まもなく一挙に定年退職を迎える社会状況も重要である。
 長い社会経験を経て、食と農、自然と環境に関心が高いと言われるこの世代が、一定程度自由に時間を使えるシルバーライフを迎えることで、農業ならびにそれを取り巻く商業・観光業に少なからぬ影響が出るのではないかと推測する向きもある。「スローライフ・スローフーズ」「グリーンツーリズム」などに注目が集まっているのも、その兆しであるということもできよう。
 こうした中で、これまでの農業政策を振り返り、時代のニーズに見合った農業、特に地域農業のあり方を探ることが重要になっていている。
 今回は、伝統的な食文化を現代的に発展させた食品製造業の立場、新たな農産物の流通形態を切り拓いた産直市場の立場、さらに県の視点から農業政策を遂行する立場の皆さんに集まっていただき、「農と食のあり方」をめぐって、自由に議論を交わしていただいた。【上・下2回連載】

「食と農」に関する意識の変容

特別企画<br>伊那谷 森の座談会<br>農と食のあり方を考える【上】<br>-団塊世代の大量退職時代を前にして-

司会 「食と農」に関する意識が近年随分変り始めているという指摘があります。皆さんが、その点をどのように感じておられるか?トピックスとして寒天に大きな注目が集まっているという状況もありますので、塚越会長からお願いできますか。
塚越 寒天が大いに注目されているのは私としてはうれしい限りですが、農業生産物の話とは少し論点が違うでしょう。寒天の原料は海産物ですからね。今のブームはマスコミの力によるところが大きいのです。もちろん、寒天は伝統食品で、360年にわたり食べ続けられていますが、食べてみたら体に良かったという実感が潜在的に蓄積されている。こういう、食べてみて健康に良いものが評判になるという意味では、今の消費者サイドからの「食と農」への関心の高まりと相通ずるものがあるかもしれません。
牛越 農産物でなくても、伝統食品への注目が高まっているのは重要な変化だと思います。私は大町の出身ですが、寒天と同じく海藻の天草から作られるエゴが夏祭りの伝統食でした。しばらく姿を見ない時期もありましたが、この頃はまた復活してきています。
田山 先日長寿食の本を読みましてね。みそ・大豆・つけもの・豚肉などがその筆頭に揚げられていた。私には栄養学的な素養はないが、ポリフェノールがどうも良いらしい。昔の人はどんな栄養素かなどは知る由もないのに、無数の人々が食べたり見たり聞いたりして、それが体に良いということを知って、守ってきた。つまり伝統食品には人間の知恵が凝縮されているわけで、それが見直されていると思うのですよ。
小林 伊那谷の場合には、はちのこ・いなご・ざざむしという昆虫食があります。それに寒天。体に良い伝統食のなかに昆虫が入っているのは山国だから理があるが、海産物を原料にする寒天も入っているのは面白いですよね。
塚越 私がいるからと言って、なにも寒天の話に結び付けなくても良いですよ(笑い)。とにかく、伝統食品というのはその土地の土壌や気候、人々の生活に密着したもので、そういうものがその土地の人々の健康を支えるものだったと言うことはたしかなことだと思う。
田山 「身土不二」という言葉がありますね。その地域の土壌や気候とそこに住む人の健康は一つのものだ、だからその土地で出来たものを旬に味わうのが健康に一番という意味です。伝統食品の素晴らしさを集約する言葉ですね。
 ただ、統計的にみると長野県の平均寿命は、昭和40年(1965年)には男性が全国9位、女性が26位だった。それがグングン伸びて現在平成12年(2000年)では男性が1位、女性が3位にあります。これを見るとね、長寿ということからすれば単に伝統食だけでなく、古いものと新しいものがうまく融合して、そうなっていると見るべきではないですかね。
塚越 それはきっと、農村の食生活が改善されたこと、端的には減塩が進んだことと密接不可分なんでしょうね。
牛越 「食」を健康の視点から考えるという意識の高まりの結果だと私も思います。農業改良普及センターや食品業界の皆さんなどが努力されて、減塩が徹底された。それで寿命がかなり延びたのは事実ではないでしょうか。
塚越 それで、寿命の延びた高齢者がまた元気なわけだ。上伊那は活力溢れる高齢者が多いでしょ。こういう方々が土地の物を食べて、一生懸命に畑で働いて、美味しい野菜を地元に供給する。それで、ますます食と健康に対する意識が高まるのでしょうね。

戦後60年を見続けた世代の感覚

特別企画<br>伊那谷 森の座談会<br>農と食のあり方を考える【上】<br>-団塊世代の大量退職時代を前にして-

司会 「食」を健康の視点から考える志向が高まるにつれ、その土地で作られた食材に関心が集まり、その作り方、つまり「農」にも問題意識が広がるというお話しになっていると思うのですが、近年、その傾向は特に強くなってきている思います。そのきっかけはどんなところにあるとお考えでしょうか?
田山 それは、1つには子どもの食生活がファーストフードとか冷凍食品とかであまりに酷くなり、見過ごせない状況になっているというのがあると思う。先ほど平均寿命の話が出たが、沖縄はかつて男女ともに長寿日本一でしたよね。ところが、若い男性の死亡率が年々上がってきている。65歳以上の男性の平均寿命は今も全国最高レベルだが、それ以下の世代の平均寿命が下がっている。終戦後占領されて、アメリカナイズされた食で育ってきた世代なわけです。言ってみれば沖縄は、日本で一番先にファーストフードの洗礼を受けた。そのツケがいよいよ現れてきている。これは、すぐに本州でも見られる現象だと思います。
塚越 もう1つのきっかけは、高齢化社会になったこと、そのものではないでしょうか。団塊の世代が間もなくリタイアを迎えるけれど、年を重ねて生きていると、皆、当然健康に関心を持つようになるでしょ。健康でありたいというのが、大多数の人間の共通する希望だ。健康で長生きしたい。それだけ現在の日本は良い世の中なのかもしれません。とにかく、みんながそう思い始めているから、「食と農」への関心が高まるのではないでしょうか。
牛越 団塊の世代の皆さんは、戦後経済の復興と発展を、均質の労働力として先頭で経験し担ってきた世代ですよね。この方々が退職年齢を迎えある程度の達成感を持っておられる。けれども同時に、戦後をずっと見てきてこられた人たちとして、「これでよかったのか」という思いも持っておられる。成長・発展の時代を担ってきたからこそ、農と健康食への回帰の意識が広がっているのではないでしょうか。
小林 それは私も同感です。団塊の世代というのは戦後60年の変化をつぶさに体験してきた世代だ。人々が工業生産にかり出され、そこで汗水流して働き、その一方で、田畑が次第に荒れていく様を見てきたわけです。子供の頃に食べたものが、食べられなくなっていくのを身を持って経験してきた世代というわけです。だから、なつかしさも手伝って、昔食べたような本当の味の野菜が食べたい、山菜が食べたい-とこうなる。伊那市そば打ち名人会がやっている、みはらしファームのそば所「名人亭」でも、魚介類のてんぷらなど出しても、誰も喜びません。ところが、山菜のてんぷらを出すと、特に都会から来た観光客の皆さんは「これはなんだ?」「昔食べたことがあるぞ」と大喜びです。そんなところにも、本来の「農」への回帰が現れていると思います。
塚越 そういう意識の変化を察知して切り替えるべきなのに、それが一番遅れているのが料亭とかレストランではないでしょうか。まぁ、都会では進んでいるところもあるけれど、地方の場合、たいていカニとかエビとかフォアグラとかそんなものをご馳走として出してくる。これでは時代の意識から完全に取り残されてしまう。かんてんぱぱガーデンの「さつき亭」などは、そういう時代意識にマッチした食を提供しようとやっているんですよ。
田山 その点、京都の1000年の歴史は見習うべきものがあると思います。壬生菜、加茂茄子などの京野菜、それを使った漬物。こうした伝統食の上に京都のお茶屋があるんですね。どんなに時代が変っても京都の食には、ずっと地産地消の柱が入っている。
塚越 本当にそうですよね。ホスピタリティ(「丁寧なもてなし」の意)の原点は京都にあると私も思います。
(つづく)

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