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定年を前に起業を決意

 伊那商工会議所内の上伊那地域チャレンジ起業相談室は、専任のコーディネーターが新しく事業を始めようとする人や、小規模事業者の経営革新を進める上で悩みや疑問などの相談に応じている。
 過去3年間の相談者数をみると、04年度が234人、05年度が155人、06年度(昨年11月末)が74人で、開業者数はそれぞれ25人、19人、12人となっている。本年度も前年度並みを見込む。
 年代別では30縲・0代が大半を占め、60代は5人。
 業種はサービス業、飲食業が多く、卸小売業、製造業、建設業と続く。美容師など自分の経験を生かして独立する、「飲食店をやってみたい」と開業を目指すケースが目立つという。
 上伊那で起業を決断した3人を紹介する。
 伊那市に住む会社員の50代男性は10月ごろを目途に、技術コンサルタントの活動を始める。事業の目的に、アイデアで社会貢献することを掲げる。それは「金もうけは、人のつながりではないか」と考えているからだ。
 約30年間、製造業で機械加工、製品開発、ラインの自動化の経験を積んだ。電気主任技術者3種を取得し、機械に関する知識を体得した。
 商品開発で困っている企業、自動化や省力化で困っている企業をターゲットに、自分のアイデアで付加価値を生み、具体的な商品開発などを手がけていく。まだ具体的な方向は見えていないが、ごみを流しても発電できるような水力発電など環境に配慮したものや、弱者といわれる人たちに役立つものなどを考え、大手企業が入り込まないすき間をねらう。
 これまでいくつかのアイデア商品を開発したが、なかなか売れなかった。売れない原因は「ニーズがないところには売れない」だった。売るには、消費者の気持ちを捉える商品を作ること。そうすることで、人の役に立とうと、20代から考えていた独立を決めた。
 製造業の現場を見ている中で、団塊世代の退職に伴う「技術の継承」を危ぐする。指導しても、経験で積んだ指先感覚の技術は伝えきれない。
 パソコンばかりを頼り、先輩の技を盗むことをしなくなった若者。機械が故障しても把握が出来ない。技術者の技術力が落ちていることを感じている。
 「技術力は、韓国や台湾に一部抜かれている。これから、ますます国際間競争が激しくなり、独創的な商品や加工技術が必要になってくる」
 今のところ、技術者は個々の企業での「点」でしかない。インターネットなどを通じた横のつながりを持ち、情報交換の場、悩み解決の場で交流を図る形を作り、全国へ、世界へと輪を広げる。
 一つのコンセプトに対し、技術者が技術を持ち寄り、お互いの得意分野を生かしながら、一つの製品を作り出す。
 「アイデアは無限。日本の製造業を少しでも元気にする手助けをしたい」と夢を大きく膨らませる。
 ◇ ◇
 伊那市高遠町片倉の守屋豊さん(54)は、高遠そばの店「ますや」オープンに向けて準備中だ。
 高遠そばは、辛味大根、焼きみそ、刻みネギを合わせた「からつゆ」で食べる地域食。家庭で食べられているが、なかなか店では食べることが出来ない。「素朴で豪快な高遠そば」を売りに、自ら粉をひき、打った「二八そば」「あらびき十割」を提供する。ゆでたてを味わってほしいと1人前を2回に分けて出したり、客にからつゆのみそをといてもらったりと工夫を凝らす。
 いずれはソバの栽培から始め、そばを作って、粉をひいて、打つのが理想。
 「子どものころから、おふくろが打つそばが好きだった。食べる専門だった」と言うが、10年ほど前、北信のそば屋で食べたそばがおいしく、いつか店を持とうと独立を考えた。踏ん切りがつかずにいたが、企業も厳しい状況。どうせ始めるなら体力、気力があるうちにと決意した。25年間、勤務した総合小売業を退職し、一昨年5月、東京の専門学校へ通い、そば打ちの基本を学んだ。
 店では、そば以外にも、長いもを使ったとろろなど地域食も用意。できるだけ地元産の食材を使いたいと考え、地域の活性化にひと役買う。
 前の職場で、魚をさばいたり、総菜を作ったりし、販売や買い付けなども経験した。調理師免許が開業に役立つことになった。
 店は、桜の名所で知られる高遠城址公園へと続くループ橋の下。客の顔が見えるように、18席を配置する。
 「客とのコミュニケーションを取りながら、和気あいあいとした雰囲気のある店に」と抱負を語る。
 すでにホームページ(massya.com)を開設。高遠そばの由来、開業に至る経過、そばをひく石うすの電動化への挑戦、お品書き、そば屋を食べ歩いたそば巡りなどを紹介し、反響を呼んでいる。
 店の完成は2月下旬。4月上旬に本格オープンする。
 「立地がいいわけではない。厳しい戦いになるでしょう」と話しながら、自分の可能性を探る。
 ◇ ◇
 駒ケ根市福岡の西村希予子さん(58)は昨年10月初旬、癒(いや)し空間「愛」をオープン。「心も体もいやしたい」と客に満足してもらえる店を目指す。
 野口医学研究所認定のリンパセラピーアドバイザー。リンパセラピーとは、リンパの流れに沿って圧を加えながら、肌をなでることで、リンパの流れを促進し、体にたまった老廃物を出し、心と体を自然状態に戻すもの。
 特別養護老人ホームに勤務していたが、肩こりや腰のはりがあり、年を重ねるごとに体に疲れが残るようになった。定年を前に、一昨年3月に退職した。
 その後、傾聴療法士、介護予防運動指導員などの資格を取得。
 自らも肩こりを経験しているだけに、介護者も健康であってほしいと「心も体もいやしてあげられる場を」と起業を決意した。しかし、若くないこと、仕事として成り立つのかという不安があった。
そんなとき、伊那商工会議所・上伊那地域チャレンジ起業相談室が主催する「創業塾」を知った。顧客満足度やマーケティングなどを学び、背中を押されるように開業に踏み切った。
 自宅の一部を改修し、温石ベッドを置き、利用者の体をマッサージする。利用者の話にも、ゆっくりと耳を傾ける。
 店には「足が冷たい」「腰痛がある」「肩が凝る」など若者から中高年まで幅広い年齢層の女性が訪れる。利用者から「起きるとき、腰に気をつけていたが、スムーズになった」「手先の冷たさが解消された」など寄せられた喜びの言葉を励みに、前に向かって歩み始めた。
 ◇ ◇
 小規模事業者を取り巻く経営環境は厳しく、開業率よりも廃業率が上回る状況。創業を実現できるように支援し、新規開業の促進、地域雇用の創出などを図ろうと、郡内で創業者を対象にしたセミナーが開かれている。
 上伊那地域チャレンジ起業相談室などが昨年9縲・0月に開催した「創業塾」には伊那市、駒ケ根市を中心に、30縲・0代の19人が受講。女性が6割を占めた。
 異業種の集まりであるものの「創業」という同じ目的に向かい、悩みや夢を語り合い、モチベーションアップにつながった様子。「情報共有できる仲間と出会い、刺激を受けた」「客とのコミュニケーション手段や税金の知識を知ることができた」など効果を上げている。
 「24時間、自分のために時間が費やせる。やりがいのあることかなと思う」「リスクがあっても、悔いのないように生きたい」。新たな挑戦が始まった。

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