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南アルプスを世界自然遺産に

県域を越えた壮大な構想始動・課題は山積

 南アルプスを世界自然遺産に竏秩B長野、山梨、静岡の3県にまたがる雄大な自然財産を世界に知らしめるべく、関係10市町村による壮大な構想が始動する。登録にはさまざまな条件が連なり、課題も山積しているのが現状。一筋縄ではいかない険しい道のりと言えるが、県域を越えて手を結んだ運動に期待が高まっている。
 南アルプスは、日本第2位の標高を誇る北岳を主峰とする3千メートル級の山々を10峰有した日本有数の連峰。キタダケソウをはじめとした固有種が自生するなど、高山植物群が全域に分布し、特別天然記念物のニホンカモシカやライチョウなども生息、氷河遺跡も存在する。財産として誇示する理由がそこにある。
 世界遺産ともなればその価値は一層高まり、国際的に自然環境の保全を図れるほか、知名度が上がり、地域の発展につなげることができる。
 登録を目指した構想は、静岡市による南アルプス市への投げかけによって始まった。山梨県側の関係市町もこれを歓迎し、両県ともに各自治体の首長や議長らで連絡協議会を設置。長野県側においては、申し入れを受けた伊那市が取りまとめ役となり、2月にも連絡協を設置する考え。年度内に3県全体の推進協議会を立ち上げて、本格的な活動の展開へ体制を整える。
 山梨県連絡協によると、03年に国が世界遺産に推薦する候補地を検討するなかで、南アルプスの名も挙がり、「山岳景観として必要な要素はすべて包含している」との高い評価も得ている。
 しかし、地形・地質面で「氷河自体を包含していない」とされ、生態系についても「近緑種もしくは同一種が近隣地域にも見られる」との指摘を受けている。また、「カナディアンロッキー山脈公園群(カナダ・既登録地)など、同様の優れた山岳景観を有する、より規模の大きな登録地が多く存在する」と、世界遺産として求められる普遍的な価値には欠けていた。
 推進協ではこうした課題を整理するとともに、登録に向けて多面的に検討を進めていく予定。一方で、地域住民の意見に耳を傾けることも不可欠だ。
 法的規制がかかる区域が山稜部に限定されているとした国の指摘によって、推進協では国立公園など保護区域の拡大も検討する。また、世界遺産になれば厳しい規制がかかることを視野に、南アルプス北部のふもと、伊那市長谷の関係者は「地元は・ス天与の恵み・スとも言うべき大きな財産。世界遺産となればすばらしいことだとは思うが、住民の生活が犠牲になるようなことがあっては困る」と不安をのぞかせる。「まず第一にメリット、デメリットをしっかりと示す必要があるのでは。全てにおいて、地域にとって良かったと思えるようであってほしい」。

 さらに懸念する点はある。
 山岳愛好者の誘致には願ってもない称号だ。国内に留まらず世界各国からの客足が期待でき、これまで以上に観光振興が図れる。ただ、収容能力のない既存の山小屋や交互交通が厳しい林道の整備が課題として浮上する。
 とくに山小屋に至っては、国立公園法によって、整備がままならない背景があり「登録を目指す言葉だけが先行しているが、何をやらなければいけないのか、平行して真剣に考えなければいけない」と、地元関係者たちは言う。
 自然保全と観光振興の狭間で、大きな壁が立ちはだかる。

 また、高い評価を受けている景観面をめぐって、南アルプスの前山、鹿嶺高原から入笠山にかけて民間企業が検討している風力発電計画により、大きな波紋を呼んでいる。
 事業者側は「世界遺産の登録基準はあくまでも指定地域内の自然が評価の対象で、計画地は国立公園から4キロ以上離れているため直接の影響はない」と主張する。
 これに対し、計画の反対派はからは「事業者の言っていることは定かではない」とする声や、「著しく山岳景観を阻害し、登山客の足も遠のく」と訴える。
 これをどう解決に導くのか、関係自治体の動きにも注目が集まっている。

 解決すべき点は山積みかもしれない。だが、南アルプスの新たな魅力を掘り起こせる可能性もある。小坂樫男伊那市長は登録運動によって「雄大な自然を広くアピールしていくことができるのでは」と期待する。自然環境を保護する重要性を再認識する機会にもなり、活動がもつ利点も十分にある。
 除々に地域の気運も盛り上がり、住民の意識も高まれば、その力は多大なものとなり、一歩一歩着実に前進できるはずだ。

 1972(昭和47)年、ユネスコ総会で採択された世界遺産条約に基づいて世界遺産リストに登録されているもので、文化、自然、複合に分類される。
 文化遺産は、歴史上、美術上、科学上、顕著で普遍的価値をもつ記念工作物、建造物、遺跡などが対象。自然遺産は、鑑賞上、学術上、保存上、顕著で普遍的価値をもつ特徴ある地域、絶滅の恐れがある動植物種の生息地、自然の風景地など。複合遺産は、両面の価値をもつもの。
 各国が候補地をユネスコに提出し、世界遺産委員会で審査、決定する。国内は、文化遺産に姫路城(兵庫県)、厳島神社(広島県)など10件、自然遺産に屋久島(鹿児島県)、白神山地(青森県・秋田県)、知床(北海道)の3件が登録されている。

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