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もっと輝け!中小企業(2)
長野県商工部 山極一雄部長に聞く

新しい産業振興策で飛躍の年に

もっと輝け!中小企業(2)<br>長野県商工部 山極一雄部長に聞く

 信州、あるいは上伊那の産業の目指すべき方向について「信州ものづくり産業戦略会議」や「上伊那地域の新しい産業像及び振興策調査研究委員会」が提言を発表してからすでに4年が経過した。この間、長野県では知事の交代劇があり、昨年11月には県の産業振興策を検討する懇談会が立ち上がるなど、新たな動きも見え始めた。上伊那の産学官が両提言に基づき「伊那谷のビジネスモデル」に選んだ元気でユニークな中小事業所の経営者たち(※注)にとっても次の展開は大いに気になるところだ。村井新体制になって、中小企業を盛り上げるための県の施策はどうなっていくのか。県商工部の山極一雄部長に聞いた。
※注 上伊那の産学官が03縲・5年に展開した「輝く経営者キャンペーン」で選ばれた優秀な中小企業経営者。同キャンペーンは、上伊那で輝いている中小企業経営者の・ス元気・スの秘訣を探り、地域産業の活性化に結び付けよう竏窒ニ、産業界、信州大学、県などでつくる推進委員会が中心となり、約100人の「輝く経営者」を伊那毎日新聞紙面やケーブルテレビ3局を通じて紹介するとともに、シンポジウムなどを開催。優れた経営者らの経営手法、経営理念などを通じて上伊那および信州の産業のあるべき姿、進むべき道を探った。昨年夏に、100人を一挙に掲載した単行本「信州伊那谷からの挑戦」を「いなまい叢書2」として発刊。
 竏柱ァ内の中小企業を取り巻く環境で最も問題(課題)と思われることは何か?
 山極一雄氏 日本経済は、「いざなぎ景気」を超えて、戦後最長の景気回復局面と言われているが、地方経済の実態は必ずしもそうではない。現実には地域の産業特性がうまく機能しているところと、機能していないところがあり、そのまだら模様の中でそれぞれが熾烈な競争をしていると思う。その縮図の一つが長野県。
 製造業は、デジタル家電、半導体、自動車関連向けなどを中心に回復してきているが、鉱工業生産指数を見ると、水準的にはまだまだ低い。観光関係では、観光地の延べ利用者数が、平成2年から長野五輪が開催された平成10年頃まで年間1億人を超えていたが、五輪が終わった後は1億人を下回ったまま低迷している。特にスキー客は、昔はスキーブームで団体客が大勢長野県へ来たが、スキー離れが続いて、平成4年のおよそ4割の水準まで落ち込んでいる。
 全国レベルの好景気が反映されない背景には、長野県の産業構造の特徴が影響していると思う。例えば、製造業では、長野県の場合、出荷額の半分近くが電気機械関連業種によるものだが、平成12年のITバブル崩壊後の落ち込みが非常に大きく、また、ちょうどそのころから海外シフトが高水準にあり、景気拡大が県内での製造活動にそのまま反映されにくい構造になってきている。
 建設業については、長野県の場合、五輪などの大型基盤整備があったため、平成7年ころまでは良かったが、その後、建設投資が急速に減少している。平成3年のいわゆるバブル崩壊後も、五輪などの特殊要因があって下支えしてきたが、それらが一度に無くなってしまい、回復の実感も乏しいのではないか。まさに産業構造の変革期にあったが、対応が遅れている、あるいは、地域を担う新しい産業の姿が見出し得ないことが問題だと思う。
 竏酎コ井新体制になって、新しい産業振興策を検討されているが、どのような背景や経過があるのか?
 山極氏 長野県は他県と比べても、いいものはたくさんあるが、それがグローバル競争など、めまぐるしい環境変化の中で、他県との競争にも遅れを取っているといった、長野県経済の憂うべき状況を、村井知事は、知事選を通じて、県内の経済界や商工団体、さらには、中小企業の方々から聞いてきた。
 そこで、これから長野県経済がどのように時代と市場の要請に対応すべきか、またどのような方向付けをし、どのような取組みが必要なのか、といった総合的な対応が急務となっている。
 行政や大学など関係機関がどのような支援を行えば、長野県内企業が従来から備え持つ能力を活かし、企業の絶え間ない努力や英知に応えられるのか、また、力強い長野県経済を再構築していけるのか、その道筋を示すために、産業界や大学、シンクタンクなど経済関係の有識者にお集まりいただき、「長野県産業振興懇談会」を昨年11月に設置。産業振興戦略プラン(仮称)を策定し、具体的な施策レベルまで提言いただきたいと思っている。
 竏窒サのような振興策は何を狙い・目的としているのか?
 山極氏 長野県民220万人が約8兆円の付加価値を生んでいるが、その中で非常に大きなウェイトを製造業が占めている(長野県の産業で製造業の占める割合は26・5%、全国では20・8%)。しかし、一人当たりの県民の所得を他県と比較した場合、長野県の製造業における要素所得が他県を下回っている状況にあり、これが結果的に県民所得の順位を下げている。だから、長野県の相対的なポジションを左右するにあたっての製造業の役割は非常に大きい。
 長野県は、明治時代から輸出用生糸の生産が盛んとなり、最盛期にはわが国生糸生産量の約3割を占め製糸王国として知られていた。これに伴い、現在の長野県製造業の中核となる機械関連技術の基礎が培われた。
 戦争と、その後のエネルギー革命、石油化学の発展に伴い製糸業は衰退したが、その一方で、航空機部品、光学機器、時計など疎開してきた工場が地元に定着し、あるいはそれが引揚げても疎開工場の残した技術が地元に根づいたことから、諏訪地域に代表されるカメラ、腕時計、オルゴールなどの精密機械工業が発達したほか、県内各地に電気機械、一般機械、輸送用機械など加工組立型産業が生まれた。
 その後、オイルショックを経て軽薄短小化の波に乗り、また、情報化の波に乗り、現在の産業集積に至っている。地理的な要因もあり県内各地に製造業が分散しているが、全体としては、製造品出荷額の7割を電気機械、一般機械など加工組立型産業が占めており、長野県はこの比率が全国トップ。
 このように、本県は、歴史的に見ても、他県以上に、製造業、特に加工組立型産業の重要性は高く、この製造業の良し悪しによって、長野県経済も左右されることから、この「長野県産業振興懇談会」では、製造業をベースにし、今までの長野県特有の技術の集約をもっとも効率的に付加価値に結びつけるようなものにポイントを置いて、プランを策定していただきたいと考えている。
 特に、今後長野県産業が目指すべき旗印を明確にし、どのようにしたらそのような成長分野の産業を集積させることができるか、また、既存企業の経営基盤をいかにして充実・強化させるか、あるいは、次世代の人づくりをいかに行うか、ということなどを柱に検討していただいている。
 竏窒サの振興策は、いつごろまでに策定し、どのように進めていくのか?
 山極氏 財団法人長野経済研究所の平尾勇理事を委員長とする12人の外部有識者によって、この懇談会は開催されるが、今年度内、計6回開催し、本年3月末を目途に策定していただきたいと思っている。
 これまで開催した3回の産業振興懇談会では、長野県経済の現状と課題、旗印・指針となる産業分野、企業誘致策、既存産業の育成策、創業支援策、次世代の人づくりに関して、長野県がこれまで培ってきた技術的な優位性、強みをいかに集積させて施策展開を図るか、本県の自然環境や地域特性を活かした産業分野は何なのか、などが論議されている。
 この懇談会で論議されている御意見の中からすぐに取組みが可能な施策については、現在、作業を進めている平成19年度当初予算においても、企業誘致の推進強化、中小企業融資制度資金の充実、技術開発支援機能の拡充強化など、成長産業の集積や既存産業の充実・強化に結びつく有効な支援施策が実施できるように取組んでまいりたい。
 竏衷、業や観光などの振興策はどのように考えるか?
 山極氏 商業については、小売業の年間販売額、従業員数とも昭和57年を上回って推移しているが、事業所数は昭和60年以降減少を続けている。これは、小規模店舗が減るとともに大型店が増加していることを示している。また、小売業の売場面積における大型店の占める割合も上昇を続け、平成18年3月には約6割に達していることから、中小小売業の経営環境は厳しいものが窺える。
 商業振興施策には、「これ」といった決定打がないのが実情だが、商店街は「まち」の重要な機能の一つでもあることから、商業振興は、商業者と地域住民と行政とが一体となって取り組むべきものと考えている。
 一方、商店街ににぎわいを取り戻すためには、個店の活性化をはじめ、自らの問題であるとの強い自覚をもって、自助努力をしていくことが求められている。
 これらを踏まえ、県としては、「まちづくりの一環としての商業振興」との考え方に立った、まちなか再生に必要な施策及び、意欲のある商店街が行う主体的な取り組みに対する、より実効の上がる支援策を検討したい。
 観光関係では、長野県内には多数の温泉があり、温泉地数では北海道に次いで全国第2位、高原、湖沼など美しく豊かな自然環境にも恵まれているが、先程述べたように、観光地の延べ利用者数が、五輪が終わった後は1億人を下回ったまま低迷している。特にスキーについては、スキー客は平成4年のおよそ4割の水準まで落ち込んでいる。このような背景から、観光に携わる事業所での経営環境は、大変厳しい状況にある。
 このような状況を踏まえ、本年から団塊の世代が退職期を迎えることや、本県を主舞台としたNHK大河ドラマ「風林火山」が放送されることから、大きな旅行・観光マーケットが生まれるものと予想されており、これを千載一遇のチャンスと捉え、県が主体となり、官民一体となった全県挙げての「信州キャンペーン」を推進し、誘客促進に取り組む。
 また、引き続き、市町村や観光関連事業者と連携を密にし、地域の地理的・文化的な特色を活かした、市町村を広域的につなぐ旅行商品の造成・販売や、都市圏での観光PRイベントなどによる県外への情報発信を積極的に行い、誘客促進に努めていく。
 特に、「スキー」産業については、長野県の重要な観光資源であり、この産業が元気を取り戻さなければ、観光立県として長野県の将来発展性はない。そのため、引き続き、「スキー王国NAGANO構築事業」を強力に推進していきたい。特に、子どもたちのスキー場利用を優待する『信州スノーキッズ倶楽部』を充実するなどし、子どもたちが大人になって再びスキー場を訪れ、ファミリーでスキーを楽しみ、そしてさらに、その子どもたちへと受け継がれるような、10年・20年後の長期的なスキー振興の戦略をもって、ウィンター・リゾートの再生に努めたい。
 竏註M州の中小企業経営者にいま最も求められているものは何か?
 山極氏 長野県の産業構造は、時代の変遷とともに、生糸から精密加工へ転換でき、現在のような切削とかプレス、メッキ、金型など、ものづくりの基盤となる多種多様な技術を持つ企業が集積し、地域経済に活力を与えている。この間、長野県経済は、オイルショック、円高不況、バブル崩壊等、様々な困難に直面してきたが、先見性に満ちた企業家の存在、そして多くの経営者の大変な御努力によって、乗り越えてきた。県内中小企業の皆様方には敬意を表する。
 県内の中小企業経営者に今、最も求められていることについては、私の方から、これが足りないとか、こういった経営が良いといったことを言える立場ではないが、企業訪問した中で、独自性というか、先見性というか、やる気というか、一言では表現できない素晴らしい経営者がいる。その経営者の共通項としては、自社の強み・弱みをしっかりと認識していることだと思う。そして、強みを発揮するためには、その強みを発揮できる分野を認識し、目標に向かって、明確な経営理念や戦略を掲げ、それを目指すマネジメントが極めて大切だと思う。
 南信地域に関しては、ハイブリッド自動車用の角度センサ、半導体製造用の部品など、国内外で高いシェアを誇る企業も多数あり、昨年4月に経済産業省が発表した「元気なモノづくり中小企業300社」にも選定されている。
 その背景には、駒ヶ根市の「テクノネット駒ヶ根」や、伊那市の「伊那異業種交流研究会」など、異業種、異分野の交流が盛んであること、また、伊那市では、創業塾や経営革新塾が活発に開催され、起業チャンピオン賞の授与等も行い、創業や経営意欲をかき立てる支援が活発に行われている。さらに、伊那市や駒ヶ根市では、市役所内の企業誘致の独立したセクションを新たに設け、積極的に誘致活動を進められていることなどが挙げられる。
 こういった地域の取組の中から、地域内の企業が互いに切磋琢磨し、経営力を向上し、特色ある企業群が形成されているのではないかと思う。
 中小企業は、経営者の力の及ぶ範囲が広いことから、経営者の資質や力量、熱意に大きく影響を受ける。このような活動が活発に行われ、今後の地域経済がさらに活性化することを期待したい。
 竏注ナ後に2007年の抱負をお聞かせ願いたい。
 山極氏 産業振興は、自治体の力だけでできるのではなくて、企業の皆さんの力による所が大きい。だから、企業の経営者には、熱意を持って、頑張っていただくことがまず第一。
 県内中小企業経営者一人ひとりが、他社との競争の中で、勝ち抜ける、あるいは、自社以外にはできるところはないというオンリーワン企業を目指し、そういった企業の集積が、県内経済の強さになっていくのではないか。
 その中で、行政は、企業が目標へ向かって進む障害を取り除く、後押しをする、あるいは手を取って一緒に進むということが求められるし、大学や支援機関、金融機関との連携も一層重要になってくる。
 県としても成長が期待できる分野に対しては、工業技術総合センターやテクノ財団をはじめ、中小企業振興センターなど、商工関係機関並びに、大学や銀行等との連携のもと、経営や技術課題の解決や産学官連携の促進に努め、挑戦する企業への支援に積極的に取り組み、県内産業の飛躍の年・ス産業振興元年・スになることを期待する。

上伊那の中小企業の状況

もっと輝け!中小企業(2)<br>長野県商工部 山極一雄部長に聞く

 山極部長の話を上伊那の中小企業にあてはめて考えてみたい。
 上伊那の中小企業のビジネスモデルは、地元産業界、信州大学、県などの産学官が03縲・5年に展開した「上伊那・輝く!経営者キャンペーン」で選ばれた経営者約100人にほぼ集約されている。これらの経営者の経営理念、技術開発の経緯などは伊那毎日新聞紙上で逐次紹介したが、昨年夏にそれらが1冊の本にまとめられた。題名は「信州伊那谷からの挑戦」。今回の山極部長のインタビューで、同書に取り上げられた、上伊那の・ス輝く経営者・スたちの先見性があらためて裏付けされた。
 県は昨年11月、新たな施策として「長野県産業振興懇談会」を立ち上げた。同懇談会について山極部長は「長野県がこれまで培ってきた技術的な優位性、強みをいかに集積させて施策展開を図るか、本県の自然環境や地域特性を生かした産業分野は何なのか、などが論議されている」と説明する。田中前知事時代の提言よりさらに具体的な施策や方向性などが盛り込まれる見込みだという。
 「長野県の自然環境や地域特性を生かした産業分野」を上伊那の・ス輝く経営者・スたち100人の例にあてはめてみると…。
 上伊那の文化や自然、環境、特産物を生かして・ス伊那谷ブランド・スを確立した好例として「伊那紬」があり、こうや豆腐製造販売、自然派食品販売、桑茶開発販売などもある。また、自然との共生、アウトドアスポーツ、自然食、心の通う対話などを提案し続ける山荘(レストラン、結婚式場)も・ス生活文化の発信基地・スとして地域に受け入れられている。森林資源や地域エネルギーの活用では、薪ストーブ販売、環境関連機器販売などがユニークだ。
 さらに山極部長は「信州の中小企業経営者にいま最も求められているものは何か」の問いで「独自性というか、先見性というか、やる気というか、一言では表現できない素晴らしい経営者がいる。その経営者の共通項としては、自社の強み・弱みをしっかりと認識していることだと思う。そして強みを発揮するために、その強みを発揮できる分野を認識し、目標に向かって明確な経営理念や戦略を掲げ、それを目指すマネジメントが極めて大切」と述べている。
 これに関しては、「信州伊那谷からの挑戦」で紹介する100人の経営者はすべてあてはまるといえそうで、参考にすべきビジネスモデルは意外と身近にあることがあらためて分かる。
 また同部長は、南信地域に関して「国内外で高いシェアを誇る企業も多数あり、昨年4月に経済産業省が発表した元気なモノづくり中小企業300社にも選定されている」と評価。その背景として、異業種、異分野の交流が盛んであることなどを掲げ、「地域内の企業が互いに切磋琢磨し、経営力を向上させ、特色ある企業群が形成されているのではないか」とする。
 「元気なモノづくり中小企業300社」に選ばれた上伊那の企業はミカドテクノス(伊藤英敏社長、箕輪町)。創業以来のプレス加工とともに、省力化専用機や真空ヒータプレスなどの自社ブランド専用機の製造販売で知られる。同社の独創的なアイデアは大手メーカーも注目し、新製品の共同開発を依頼されることも多い。「元気なモノづくり中小企業300社」に選定される以前に「輝く経営者キャンペーン」で早くも認められ、100社の中でも特に優れた経営者らに送られる表彰も受けている。
 「異業種、異分野の交流」を目指すグループは「テクノネット駒ヶ根」「伊那異業種交流研究会」のほか「GENKI21」「世界一の会」「元気印の会」など多彩。これらの企業連携が今後の上伊那経済を占う上で、大きな鍵を握っていることは、・ス輝く経営者・スたちの実績がすでに証明していると言えそうだ。

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