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シルバー人材センターで襖・障子張り
伊那市荒井区 高橋達雄さん(71)

「もの好きでお人よしのほうが人生楽しい」

シルバー人材センターで襖・障子張り<br>伊那市荒井区 高橋達雄さん(71)

 伊那広域シルバー人材センター伊那地区の事務所にある作業場で、襖や障子の張り替えに精を出す。なんとも鮮やかな手付きで、あっという間に障子紙をしわ一つなくピンと張っていく。
 「人生の最後にこんなにウキウキ楽しく仕事ができるなんて想像できなかった。明日から仕事だと思うと、ああして、こうして…と考える。バカみたいだけど楽しくって、楽しくって…」
 オリンパス伊那工場に40数年勤め、顕微鏡や内視鏡のレンズ加工一筋に生きてきた。定年後は、何か一つ変わったことをしたいな-と思いながら、2年ぐらいはしっかり遊ぼうと考えていた。
 当時、妻はまだ働いていたため、単身で台湾旅行に参加。同室になったのが、シルバーで襖や障子張りの仕事をしていた田中義人さんだった。
 「1年に1、2回は仕事の分配金で海外旅行ができる。教えてやる」と言われ即入会。定年から約2年後のことだった。
 「田中さんは本当に立派な方。足手まといの右も左も分からない私に教えながら、分配金はフィフティー・フィフティーで、本当に頭の下がる思い。それを1年間やってくれた。今楽しく仕事ができているのはこの人のおかげ。今だに感謝、感謝です」
 見るもの聞くもの全てが新しい世界。「出会いがあっても、自分が張り合って意見を通そうとだけしたら駄目。ある程度、自分の高まる気持ちを沈めていくことがいい」。自分自身が真っ白の状態になって教わり、技術を吸収した。
 「しわがないように張る。これに尽きる」。ふすまは、裁断した紙の周囲約3-5センチに濃いのり、真ん中はミルク状の薄いのりをまんべんなく塗り、そのまま少し置いて紙が伸びた状態になったところで張る。「大きくてびっしょり塗れている紙を張るので結構大変」。紙を汚さないように気も使う。
 1年以上が経ち、独立したが、当時はそれほど仕事がなく、粗大ごみの片付け、お年寄りの家の中の整理、選挙の出口調査などなど、提供される仕事は全てやった。
 次第に襖や障子を張る人が減り、この仕事1本に。技術の8割は自分で考え、努力して身に付けた。今は仕事が平均して週3日ぐらい。年数回の襖張り講習会の講師も務める。
 これまでには、失敗もある。張った障子を軽トラックに乗せるときにぶつけて破ってしまったり、襖を逆さに張ったり…。失敗したときの紙代は当然自分持ち。「今なら笑えるけど、その時は真っ青。納期は来てるし、ご飯も食べないで飛んで歩いて」。そんな経験があって、今がある。
 「精密さにかけては妥協を許さない。会社時代に培ったものが今に生きていると思う」。将来、シルバーがずっとこの仕事の受注を受け、ますます盛んになっていくために大事なのは「信用」。決して仕事の手を抜くことはない。
 音楽も、映画や絵画の鑑賞も好き。映像が好きでビデオカメラの撮影もする。襖や障子張りは全く異なる世界のようだが、「私にぴったりの仕事。本当にいい仕事に出合った」という。
 「張り直しにくる襖は相当に汚れてえらいもの。それがきれいになるのもうれしいけど、1枚1枚張るごとにとにかく楽しいね」と笑みを浮かべた。

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