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小田切恵子さん「私の井月」を彫る

伊那市西春近の木彫家

小田切恵子さん「私の井月」を彫る

 ほほえみ地蔵や民話をテーマにした人間味ある作品で親しまれている伊那市西春近の木彫家、小田切恵子さんはこのほど、一刀彫「私の井月」を完成させ、13日の「井月俳句大会」で披露される。
 「私の井月」は高さ65センチ、直径約1メートル、岡崎産の楠(クスノキ)の丸太から彫り出した。風呂敷包を乗せた竹行李を担ぎ、杖をつき、前屈みに歩く井月の姿は、俳人で医者の下島空谷の絵「井月の面影」を基に、小田切さんの木彫の師、西村公朝さん、良寛さんの面影を重ねて「とろんとして切れ長の目、『にかっ』とちょっと斜に笑った顔の表情を決めたという。
 旅をねぐらにした漂泊の俳人らしく、手や足は、人の手足、ギリシャ彫刻を観察して、力強く表現した。
 武士の生まれとも裕福な酒屋の出とも聞き、プライドも高かったのだろうと、羽二重の着物を着せ、行李には、自分も亡き父親も好きだった、組ひもをおしゃれに結んだ。
 3年前、知人から「井月を彫って見ないか」と空谷の絵を渡され、昨年12月、井月の「父恋し、みのかさ持たぬ、裸虫」に出会い、「しがらみを離れ、思うがままに生きた亡き父と井月の生き方を重ねた。今年は59歳で亡くなった父の33回忌に当り、自分も59歳、伊那市に嫁いで33年と数字が重なったのも何かの縁か」と、彫り始めたという。
 彫り始めると、実在の人を彫ることの責任、難しさに直面し、1時のみが持てなくなった。俳句の勉強し、俳句を作っているうちに、再び、仕事場に座ることができたという。
 「彫っていると、亡き父をはじめ、木彫や仏教など、自分が出会った様々の人生の師が現れ、『自分の思うまま、素直に彫れば、それでいい』と励ましてくれた。父の遺品ののみが自由に動いて、楽しく彫ることができた」。
 彫り終えて「(仏師の)父親に植え付けられた自分の感性は、これだったのかと感じ、常に問い続けてきた自己の原点、生存の意義に答えが出たような気がした」という。
 この作品は13日の伊那市高遠の高遠閣で開く「井月俳句大会」で披露され、その後は、俳人、春日愚良子さんが主宰する句会の会場、清水庵の片隅にでも置いてもらえれば、うれしいと話す。

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