【ネイチャー・アート 市山泰子さん】
駒ケ根市南割
野山にある身近な素材竏忠ヤ、枯れ枝、木の皮、種、コケ、落ち葉、流木、昆虫の繭…。そんなありふれた材料を集め、オリジナリティあふれる美しい装飾品に変身させる。結婚、家の新築などさまざまな要望に応じて作品を制作する一方で、森を舞台にした創作ワークショップを開催し、自然の魅力を発信し続けている。
98年には『くらしを彩るリース竏註Xを歩く、リースをつくる』を出版。そのほか新聞、雑誌にエッセーを連載する傍ら、自宅近くにある養命酒製造駒ケ根工場の「健康の森」、「記念館」でディスプレー・アドバイザーも務めている。
「作品展を見た人が『こんな材料なら家の周りにもたくさんある』と驚きの声を上げるのを聞くと本当にうれしくなります。作品の評価のことではなくて、見過ごしていたきれいな物が身の回りにはたくさんあるんだ竏窒ニ気づいてくれたことがね」
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北アルプスのふもと、谷深い小谷村で生まれ育った。小学校5年生の時に通い始めた生け花教室の初日、先生に言われた。
「材料は花屋では買わない。自分で山に行って気に入った物を採っていらっしゃい」
もともと野山が好きで毎日傾斜が急な原生林で遊んでいたくらいだから喜んで山に行き、時間を忘れて歩き回っては抱え切れないほどの花や葉を集めた。
「山に一人でいても怖いと思ったことはなかったけれど、それでさらに山と親しくなりました。木漏れ日や水のせせらぎ、鳥の声…。そんな美しい自然の中で過ごしたおかげで情緒的な感性が育まれたんじゃないかな」
長じて金沢、京都などに住んだが、山の近くで暮らしたいという思いは募るばかりだった。20年ほど前、自然の中での暮らしに賛同した夫が長野県に転職。駒ケ根に定住した。
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「どこでリース作りを習ったのかと時々聞かれますが、誰にも教わったことはありません。山に行き、目に留まった素材を集めて組み合わせるだけで素敵なリースができるんです。自然に浸り、美しさを見つけ、造形する竏秩B特別な技は何もいらない」
レッスンでも「作り方にとらわれないで、好きなように」とアドバイスする。注意するのは、型にはまってしまうことだ。
「山に嫌われていなければ良い材料を見せてもらえる。そんな森との一体感が幸福なんです。だから毎日森を歩いている。人間というのは、自然から離れれば離れるほど不安になるんじゃないでしょうか。自然は人の心を支え、励ましてくれるのに…。みんなもっと山に行き、森を歩いて美しさを発見してみてはいかがでしょう」
(白鳥文男)