田舎の家族として観光客を温かく迎え入れる竹松旅館
竹松泰義さん(62)
志げ子さん(59)
お客さんがみんな親戚のようになっちゃうからね竏秩B
歴史と桜の高遠城下町にたたずむ竹松旅館。その3代目として、各地から訪れる観光客らを温かく迎えている。地元の珍味や季節の山菜やキノコを使ったこの土地ならではの料理は、先代のおかみの時代から変わらない。大きなホテルや旅館にはない家庭的な居心地の良さを求め、度々訪れる客も多い。
「何をするわけでもないけどぶらりと来て、『心が安らぐ』といってしばらく泊まっていくお客さんもいます。料理はすべて手料理。ハチの子もザザムシも全部うちで煮付けるんです。(巣から)ハチの子をむくのを見て、お客さんも『やりたい』って手伝ってくれたりもするんですよ。お客さんがみんな親戚のようになっちゃってね」と志げ子さんは語る。
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志げ子さんの母親である先代のおかみは、雑誌などで紹介されたこともある名物おかみだった。「おばあちゃん来たよ」と、おかみと話すことを楽しみに訪れる客も少なくなく、まさに“田舎おばあちゃん”のような存在。もてなしにも「お客さんに喜んでほしい」という精一杯の思いが込められていた。
そんな母の姿を幼い時から見て育った志げ子さん。泰義さんとの結婚を機に後を継ぐこととなり、「私もお客さんが喜んでくれるようなもてなしをしたい」と決意。地元の食材を使った手作り料理などを引き継いだ。
春にはフキノトウやタラノメ、秋にはマツタケ料理竏秩B四季折々に地元で採れる食材を使い、すべて手作りで出す。団体客であってもそれは変わらないため、合宿などの時は家族総出で大忙しとなった。
「でも、お客さんが喜んで帰っていく姿を見ると全部忘れちゃうね」と笑顔を見せる。
中でも、20年ほど前から続けている「マツタケ料理」は、広く知られるようになり、全国各地から足を運ぶ客も多くなった。マツタケももちろんすべて地元で採れたもの。
「年によって確保できる量は違うが、不作だったからといってそう簡単に価格を変えることはできない。だからといって輸入マツタケを使うというのも違うと思う。毎年楽しみに来てくれるお客さんがいるからね」と泰義さん。
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会社勤めをしながら志げ子さんを支えてきた泰義さんも、退職した2年ほど前からは旅館業に専念している。
「大きなところと違って、掃除から布団敷きまで全部やらなきゃいけないのは大変」とする一方、毎年合宿に訪れる子どもたちの成長や、旅館を訪れるさまざまな人たちとの出会いを夫婦で楽しんでいる。
「合宿で訪れた小学生が指導者となって戻って来てくれたり、学生時代にお金がなくて泊めてあげた人が泊まりに来てくれたり。いろん人がいるけど、戻って来てくれるのは嬉しい」
一方、以前からの課題だった「桜以外の観光資源の開発」に加え、交通網が発達したことで日帰り観光が増加しており、今後徐々に宿泊者が減少していくのではないかという新たな懸念も生まれている。
「城下町として灯篭まつりなどいろいろやってきたが、なかなか観光客が定着するまでに至らなかった。しかし高遠町は合併しても歴史の街。そういうものを整備して、やっていければと思う。ぼくらの代は何とかなるが、できればここへ残していきたい」