南アルプスを望む高台でハーブが彩る「カモスガーデン」をつくる
箕輪町下古田
加茂克昭さん(57)
カモスガーデンの“カモス”には、『加茂’s』と、『(香りを)醸す』っていう二つの意味があるんだよ竏秩B
南アルプスを正面に望む伊那市西箕輪の高台にあるカモスガーデン。ローズマリー、ロシアンセイジ、ミントなど、ハーブを中心とする花たちが四季折々に庭を彩る。中でも、20種約1万3千株あるラベンダーが咲く6月から8月中旬にかけては、一面が淡い紫色に染まり、心地よい香りが辺りを漂う。
都会の喧噪(けんそう)を忘れて心安らぐ香りの中でひと時を過ごしてみませんか?竏秩B道行く人たちに花たちが語りかける。
「ラベンダーは知る人ぞ知る一年中楽しめる花。花の時期はもちろん、花の咲かない秋だってシルバーグレーの硬い葉っぱが出て、それもまたいい。冬は雪で黒がかった色に変わってくるのだけど、その色もきれい。背景には雪をかぶった南アルプスも見える」
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自分の手で土にさわりながら植物を育てたい竏窒ニ、考えるようになったのは45歳を過ぎてからのことだった。夢を実現すべく、横浜市で経営していた会社を締め、ハーブガーデンを開くために妻の実家のある上伊那に移住。しかし、こちらでやろうと思っていたハーブガーデンの企画が頓挫してしまい、一瞬にして右も左も分からない辺鄙(へんぴ)な地に取り残されることに。途方に暮れながら、しばらくは何もできない日が続いた。
せっかく景色のいい所にいるのだから景色のいい所に住みましょう竏秩Bそんな姿を見かねた妻が探してきた小さなアパートに移り、改めて自分の思いを見直す中で、再起をかけて動き始める。
まずは辰野町の生産者に頼み込んで仕事をしながら花の栽培技術を学ぶ。
「その年は何年かに一度の大雪が降って、つぶれたハウスを建て直す作業から始めたんだけど、それまでだらだらしていた50近い体で真冬の朝の凍った世界に出ていったものだから大変だった。耳なんかがしもやけになってね」と笑う。
その傍ら、アパートの近くにあった使われていない畑を借り、庭づくりを始める。しかし、そこは10年以上も使われていなかった荒れ地だったため、地力を再生させるために1年間はただひたすら土を耕した。次は品種の選定。種を取り寄せては枯らしという作業を繰り返す中で、寒いこの地でも育つ品種を一つひとつ検証。ガーデンとして一般の人に開放できるようになるまでに5年を費やした。
「実際にやってみて、横浜に帰ろうと何度も思ったけどね。それでも横浜にいたころは仕事の付き合いでも見栄を張って無理をして生きていたけど、今は自然のままで生きている。体も健康になったしね」と語る。
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今は都会から訪れる人が中心だが、最近は地元の人もちらほらと訪れるようになってきた。
「絵を描いたり写真を撮ったりする人も増えてきたし、お客さんに『秋もいいですよ』って話していたら、最近は秋に見に来てくれる人も出てきた。目指しているのは物事をゆっくり考えられるような『哲学の庭』。これだけの大自然に囲まれて考えたら、人生のことをもう一度考えられるんじゃないかと思う。はっきりいって自分に反省することがいっぱいあったんで、それがきっかけで始まったんだけどね」
問い合わせはカモスガーデン(TEL090・1771・5657)へ。