“歴史の町高遠”を語り継ぐ
伊那市高遠町東高遠
堀井英雄さん(85)
とにかくこの町には歴史があり、素晴らしい人たちもたくさんいる。「あー、おれは高遠に生まれて本当に良かったな」って感じる竏秩B
高遠に縁のある歴史的な人物や町の歴史について語っている。高遠城址公園での観光案内のほか、公民館講座などで講演を依頼されることも多い。
85歳とは思えない快活な口調。まるでその時代を見ていたかのような語りに聴衆も引き込まれる。
「まんず、すごいんだに。正之公が亡くなってから117年した時、幕府が全国の藩に対して『善行者を調査しろ』という御触れを出した。ほかの藩は10縲・0人ほどだったのに、(正之公の治めた)会津藩は926人も善行者がいた。これも正之公が『親を大事にしろ』という政治をした結果。ここに正之公の人柄が出ている」
戦時中は仏領インドシナへ派遣され、終戦を迎えた。その後、1951年から30年間は中学校教諭として務めたが、当時の担当は美術。歴史のことなどまったく知らなかったが、退職後に町郷土館に勤務したことが歴史を学ぶきっかけとなる。
「そこには歴史的な資料がたくさん並んでいて『高遠っていうのはこういうところなんだ』って思った」
何気なく暮らしてきた自分たちの町に眠る過去の記憶の一端を知り、「もっと知りたい」という探究心が駆り立てられた。
まずは町の歴史を知ろう竏窒ニ、町史の歴史編を丸暗記することに決めた。線を引いたり書き込んだりしながら、寝る間も惜しんで読み進めるたびに、目の前にはさまざまドラマがありありと広がっていった。
最終的に上下2冊を読み終えた時、覚えたという達成感より「高遠はなんて素晴らしい町なんだろう」と感じることが先だった。
その後も保科正之、絵島、阪本天山、守屋貞治など、高遠に縁のある人物を一人ひとり掘り下げる。資料や本が増えていく一方、それぞれの人物像や人柄が鮮明になり、人間的な魅力を感じるようになっていった。
「ある時、夜中に『あの本読みたいな』って思って、トイレに行くついでに懐中電灯を持って母屋から離れた書斎まで本を取りに行った。そうしたら次の日隣の人『昨日変な灯りがうろうろしていたけど、大丈夫だった』って声をかけてくれたこともあってね」と笑う。
◇ ◇
尽きることのない歴史の魅力を今なお追及する一方、若い世代を中心として歴史への関心が希薄化していることも感じており、事実を語り継いでいくことの重要性を感じている。
「話を聞いた人が事実を事実として伝えていくことが大切だし、地域の人たちが『こういう歴史があったんだ』って話をしていけるようになればと思う」