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炭とともに暮らす~山のいとなみのなかで~

炭焼き名人伊東修さん・伊那市長谷小学校4年

炭とともに暮らす~山のいとなみのなかで~

 里山に囲まれた伊那谷では、薪や炭を暮らしのさまざまな場面で利用してきた。薪や炭の材料を調達する里山を「薪炭林」(しんたんりん)と呼び、山と暮らしが密接な関わりを持っていた時代は、そう昔のことではない。
 しかし、化石燃料の普及、生活スタイルの変化などにより、私たちの暮らしは山から少しずつ遠ざかり、今では、家庭の中で炭を利用する場面はほとんど見られなくなった。
 一方で、化石燃料の燃焼によって大気中の二酸化炭素の濃度が上がり、地球温暖化を加速させていることが懸念される中で、燃料としての炭が注目されはじめている一面もある。炭の原料である木は、大気中の二酸化炭素を吸収して育ったものであり、炭を燃やすことで放出される二酸化炭素の量は、もともと大気中にあった量であるため、地球温暖化を加速することはない竏窒ニいう理由からだ。さらに、炭は、有限な化石燃料とは違い、木を育てることによって再生が可能な資源であることも、注目される点である。
 今回の朝の学舎は、伊那市長谷で、炭焼きを中心とした自給自足の暮らしをしている伊東修さんを、長谷小学校4年生が訪ねた。焼いた炭を窯から運び出したり、次に焼く炭の材料を、力を合わせて窯に詰めたりする作業を通して、炭との暮らしを体感した。

炭を出してみよう

炭とともに暮らす~山のいとなみのなかで~

 伊東修さんは、県の指導林家として、長年炭焼きの指導をしてきた。炭焼きをはじめて、すでに約50年。上伊那農業高校の生徒をはじめ、伊那谷各地で炭窯を築いて活動している個人、団体に築窯や、炭焼きの技を伝え、そうした恵みに囲まれた暮らしの豊かさを伝え続けている。
 現在、伊東さんの自宅近くにある炭窯は、試行錯誤の末に完成した伊東式と呼ばれる伊東さんオリジナルのもので、土、レンガ、コンクリートを巧みに組み合わせて築かれている。この窯では、一回に120縲・50キロの炭を焼くことができ、伊東さんは、奥さんの千枝子さんと二人で、年に約15回、炭を焼いているという。伊東さんの炭は、焼きあがると材料の約3分の1の重さになる。逆に言えば、一回に360キロ以上の炭の材料を窯に詰めることになり、伊東さん夫妻はふたりだけで、一年にその重労働を15回、重ねていることになる。
 それでも、伊東さん夫妻は「楽しくてしかたがない」と笑顔。「教科書に書いてないことで、大切なことはたくさんあるね。技は、書いて、読んで教えるものじゃなくて、見よう見真似、盗んで覚える。名人がすることを、どんな細かいところでも見ていること。それで覚えることが大事だね。体験しないと、何事も踏み出せない」(伊東さん)。
 この日は、長谷小学校4年生のために、伊東さんが10日ほど前から準備して焼いたナラの炭を、実際に炭窯に入って運び出す作業から体験した。
 伊東さんの炭窯の入り口は、小学校4年生でも体を小さくしてようやく通れる程度。中に入っても、立って体の向きを変えるのも一苦労。子どもたちは、壊れやすい炭を一本一本、そっと抱えて、順番に運び出していった。
 「思ったより狭くて大変」「入り口のところで体をぶつけて…」「窯の中はひんやりする」竏虫qどもたちは、はじめての窯の中での体験に、興味津々の様子。さらに、引き続いて、今度は次に伊東さんが炭を焼くための材料を運び入れる作業も体験することになった。
 炭の材料となる木の重さは、炭の約3倍。長さは約1メートルあり、子どもたちは一本を抱えるのがやっと。その重さに驚きながら、「こんなに重いものを伊東さんと奥さんふたりだけで運んでるなんて、すごい…」。
 少しずつ交替しながらの作業とはいえ、小学校4年生にとっても、炭の材料運びは重労働。それでも、子どもたちは最後までうれしそうに、その重労働を楽しんでいる様子だった。
 また、作業の途中では、炭の模様の美しさや、叩くといい音がすることも発見。炭の魅力も楽しみながらの作業が続いた。

炭とともに暮らす~山のいとなみのなかで~

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豊かな暮らしを守り、伝えたい

炭とともに暮らす~山のいとなみのなかで~

 「生活を考えた時、自分で作ろうと思った作物が周囲で全て手に入るような環境を作ることが大切だと思うね。それが、なにものにも変えがたい豊かさにつながる。それはすなわち、水、資源、農作物がそろっている豊かさ。その水を作るには、森を育てることが大切。それには、木の実がなるようなしっかりとした木を残して森を作ること。これが原則だと思う」
「子どもたちには、例えば我々の世代が戦争中に体験したような食糧難について伝えることも大事。(食料を)与えられるということは、危険なことだからね。ある程度、自分の力で生活できる意思を持って、環境が整ったところで生活できる見通しをつけて、生きていってほしいと思うね。そういう意味でも、こうした山村は守るべきと感じている」
 「山の木は、捨てるところがない。灰でさえ、畑へ施して肥料にすれば、病気にかかりにくい作物を作ることができる。全てもとへかえる。そういうことを考えていくと、この山間の長谷でもじゅうぶん豊かな暮らしができる。これからの子どもたちも、そうした豊かな暮らしができるように、これから生きていってほしいと願っている」(伊東さん)

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