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【新年号】 地域に伝来する雑穀で地域おこし、農地再生を竏・br>伊那市長谷地区、雑穀プロジェクトへの挑戦

【新年号】 地域に伝来する雑穀で地域おこし、農地再生を竏・br>伊那市長谷地区、雑穀プロジェクトへの挑戦

 過疎化、担い手の不足、高齢化による地域農業の減退が深刻化する伊那市長谷地区。中心地区から離れた山間の杉島地区などは、高齢化率50%を超える限界集落となっており、そのほかでも半分の地区で高齢化率40%を上回っている。野生動物による農作物被害も深刻で、度重なる食害に高齢農業者が生産意欲を失う。こうした背景から、土地を耕すことをやめる農業者も出てくる状況。耕作放棄地は増加の一途をたどる。そんな中、日本古来の雑穀の栽培により、地域農業の振興、地域おこしにつなげようとする「雑穀プロジェクト」が同地域で進んでいる。“地域のやっかいもの”だった雑穀は、中山間地の切り札となるか。大きな期待を実現に変えるため、生産体制の確立、販売ルートの確保など確かな基盤づくりに向けた模索が始まっている。

【新年号】 地域に伝来する雑穀で地域おこし、農地再生を竏・br>伊那市長谷地区、雑穀プロジェクトへの挑戦

プロジェクトの発端は3年前。当時の長谷村(現伊那市)から事業を委託された同地域で活動するNPO法人「南アルプス食と暮らしの研究舎」(吉田洋介代表)を中心に、信州大学農学部で雑穀研究に取り組む井上直人教授らが協力。古来から日本にある雑穀栽培を復活させることで、地域おこしができないか、模索し始めた。
 健康志向の高まる中、栄養価が高い雑穀は、その機能性にも一目が置かれ、都市部を中心として注目を集める食品となっていた。しかし、田舎の農家にとっては米栽培の“やっかいもの”というマイナスイメージも強く、関心が高まる風潮はなかった。
 しかし、耕作放棄地の拡大、高齢農業者の増加など、さまざまな課題を抱える同地域にとって、やせた土壌でも育ち、それほど手間をかけなくても収穫できる雑穀は新たな生産作物にもなるのではないか竏秩Bそんな思いがあった。
 まずは06年、この地に適した雑穀を選定するため、試験的に20種の在来種雑穀を栽培。その中で、有害鳥獣被害がなく、国内産の品物がほとんど出回っていない“シコクビエ”に着目した。

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 翌07年は、地元農家の協力のもと、約40アールでシコクビエの栽培を試みた。作業の効率化を図るため、田植え機やコンバインなどといった既存の農作業機械を使って一部の作業を機械化。施肥量の違いが収量に与える影響を見るため、一部のほ場で有機肥料を入れる回数を増やすなど、さまざまな試みを行った。 乾燥など、一部機械化できない作業が今後の課題となったものの、コンバインによる収穫もほぼ成功し、全体で約400キロを収穫。中でも、有機肥料を多く入れたほ場の収量は1アール60キロと特に多かった。
 このことから吉田さんは「少し手間をかければ、小さな面積でも大きな面積で栽培した場合と面積当たりの収量が変わらなくなる」として、雑穀が大きな土地を耕作できなくなった高齢農業者にも有効な生産物になると見ている。

 また、機械の導入に伴い、昨年から同事業に協力し始めた地元の農家・春日孝徳さん(73)は、減反政策に伴う代替作物として、雑穀の可能性に期待している。
 春日さんは「この辺りでは減反でソバを作るうちがほとんどだが、ソバだと生産調整の補助金をもらっても収益はない」と語る。
 しかし、今年収穫したシコクビエは、キロ500円縲・00円で吉田さんらが買い取る予定で、この価格単価なら農家側にも収益が生じる。一方の吉田さんも、買い取った雑穀の市場価値はその倍近くあると見ており、双方に利益が生じると考えている。

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 そんな中、栽培した雑穀を確実に市場へつなげる販売ルートの開拓は急務だ。
 吉田さんは昨年、大阪、東京の健康志向レストランを訪れ、雑穀の需要を調査。こうしたレストランには無農薬野菜などを販売するショップが併設されている場合も多く、雑穀を使ったメニューを提案してみたところ、実際に取り入れたいとする店も多かった。
 調査の感触から、吉田さんは「国産雑穀の需要は確実にある」と実感している。また、都心部のこうしたレストランと契約栽培を行えれば、安定的に大量の雑穀を販売できるため、メリットは多い。
 しかし、こうした店“健康”をコンセプトとしているため、食材を提供する場合にはあくまでも安心、安全に配慮して栽培することが不可欠。また、多くの店がメニューに取り入れる条件として挙げたのは、常にその食材を安定的に確保できるということだった。
 「安心・安全」については、有害鳥獣被害がないという利点を生かし、野生動物の食害でほとんど担い手がいなくなった山際の農地などで無農薬、無化学栽培を行えれば、ほかのほ場から飛散する農薬の影響もなく栽培でき、条件はクリアできる。
 一方「安定供給」という面では、生産者、生産規模とも少ない今、それを保証することはできない。取り組みに関心を持ち「雑穀栽培を始めてみたい」とする地元農業者も出てきている。しかし、多くの生産者の場合「安定的な販売ルートが確立してから始めたい」という思いがあり、相容れない所がある。
 吉田さんはこうした状況から一歩でも前進するには、やはり実績をつくることが必要と考えている。そこでまず、昨年栽培したシコクビエを直売所やネットなどを通じて販売し、それなりの実績を地元農家に示し、そこからより多くの協力を得ていきたいとする。また、長谷地区以外でも雑穀に関心を示す地元農家もおり、こうした人たちとも連携しながら雑穀栽培を進めていきたいと考えている。
 昨年栽培したシコクビエは長谷地区にある道の駅でも販売を開始しているが、人気も上々。また、地元の人にも雑穀料理を楽しんでもらおう竏窒ニ、吉田さんが道の駅の中でやっているレストランで雑穀を使ったメニューを提供したり、一般を対象とした雑穀料理講習会なども開催している。今年からは雑穀の種類も増やして栽培していく予定だ。
 吉田さんは言う。
 「収益につなげることで地域がやる気を持って農業ができるようになれば。それを見てよその人が『面白いな』って集まってくるようになり、にぎわう地域になれば」と。
 そんな願いのもと、雑穀栽培への挑戦は続く。

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