酪農家の挑戦竏衷繹ノ那の現場から竏・1)
バイオエタノール燃料の需要急増、オーストラリアにおける小麦の不作、中国における飼料需要の増大など、海外的な要因に押されて穀物価格が高騰する中、トウモロコシなどを原料とする輸入穀物飼料を家畜のえさとする畜産農家や酪農家は今、しのぎを削っている。輸入飼料の価格は、1年前と比較して約2割上昇。価格にして、1トン当たり約1万円の値上がりとなっている。この1月から3月にはさらに値上がりする予定だ。それに追い討ちをかけるように原油価格の高騰に伴い海上運賃も値上がりしている。こうした状況は酪農家戸数が県内で最も多い上伊那も例外ではない。上伊那は酪農家戸数124戸、飼育頭数4140頭、という県内でも酪農が盛んな地域。(関東農政局長野農政事務所統計・情報センター、07年2月1日現在)。全国的にも酪農家戸数が減少する中、上伊那の酪農家たちはさまざまな打開策を模索しながら、苦境を乗り切ろうとしている。
「もともと酪農というのは悪い商売じゃなく、若い後継者もいた」。伊那酪農業協同組合の桃沢明組合長がそう話すのには理由がある。
牛乳の場合、ほかの農産物と異なり、全国に10ある生産者団体と、各乳業メーカーが行う乳価交渉によって1年の価格が決まる。一方、そのほかの農産物は気候やその年の作柄によって価格が変動する。
「年度初めに価格が決まるから、経営の見通しも立てやすい。親が酪農をやっていて、子がその後を継ぐうちも多かった」と語る。
しかし、少子化や茶系飲料などの人気上昇に伴い、3年ほど前から牛乳の消費量は年々減少。それに伴い、牛乳生産量も減少傾向が続き、農林水産省の統計でも昨年10月までで39カ月連続前年割れという需要動向が出ている。そうした需要動向は確かに経営負担となってはいたが、何とかやっていける状況だったという。
「でも、今回の飼料価格の高騰は、これまでの事態とは違う」と危機感を募らせる。
バイオ燃料需要の増加などを背景に、畜産家が混合飼料として用いるトウモロコシなどの穀物類の価格が高騰する予兆があったのは一昨年の9月。しかし、その年の乳価交渉では翌年(昨年)の乳価が据え置かれ、酪農家らは厳しい経営を強いられることになった。
生産費に占める飼料費の割合は約4縲・割。輸入飼料の値上がりで、飼料費の割合はさらに約5%上昇し、全国的には経営に行き詰まり、酪農から離れる農家も出てきた。
国も畜産経営に対する飼料購入に充てる特別支援金を設けたり、県内でも全農長野が配合飼料の購入費の一部を補てんする補助制度を設けたりするなど、さまざまな措置を講じているが、いずれも値上がりを十分補てんできるものではない。
そんな中、08年度の乳価交渉では、3縲・%程度乳価が引き上げられるような動きも出てきているが、価格引き上げにはメーカー側も慎重な姿勢を見せている。
「こんな値上げ幅ではどうにもならない」と酪農家は肩を落とす。
◇生産費が増える一方、牛乳の買い取り価格はなかなか上がらない中、憤りを感じながら危機感を募らせる酪農家たち◇
こうした中、上伊那農業協同組合(JA上伊那、宮下勝義組合長)の畜産部会協議会は昨年11月、「げんきだそう!上伊那のちくさん」と題した総決起集会を開き、畜産や酪農を巡る今の情勢や課題を話し合い、自分たちとしては、生産性を向上させることで一層のコスト低減に取り組みながら、畜産・酪農を通じた「食育」「地産地消」運動の展開と消費拡大を推進するとともに、国などに対しては▽飼料価格の高騰に対応する畜産経営支援の充実・強化のための十分な財源確保▽自給飼料増産、国内にある未利用資源の利用促進などに対する支援策の充実竏窒ネどを強く要請していくことを確認し合った。
「加工品のパンやめん類が値上がりする中、どうして畜産物だけは値上がりしないのか」。懸命に努力する生産者らのそんな訴えは、今の納得し難い現状を物語っている。
そして消費者にも次のように呼びかけた。
「今後も安心・安全な国産畜産物を供給するため、精一杯努力していきます。しかし、最近のコスト上昇は生産者の努力だけで吸収できる範囲を超えています。このままだと生産者は国産畜産物の安定供給ができなくなってしまいます。このような生産者の現状を理解いただき、多くのみなさんに、ぜひとも応援団になってほしい」