【シンガー・ソングライター 吉本有里さん】
駒ケ根市東伊那
東京学芸大に入学はしたものの、教員になるための勉強に興味が持てなくなっていたある春の日、授業に出る気がせず、大学近くの小金井公園に足が向いた。折りしも盛りだった桜の花びらが空中をひらひらと漂う光景を眺めて「私も力を抜いたらあんなふうになれるのかな」と思っていると、知らず知らずのうちに体が舞っていた。「その時、桜の歌が体の奥からわき出てきて、いつの間にか口ずさんでいたんです」
初めての曲『花びら流れて』を「授かった」瞬間だった。
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卒業後、教員にはならず、シンガーとして全国各地で演奏した。32歳の時、知り合いのつてで探した米カリフォルニアの山中の小屋に移住。「お腹の中の子のためにも自分のためにも、どうしても自然出産がしたかった。でも日本にいると必ず誰かが心配して世話を焼いてくれるので仕方なく国外脱出です」
電気も水道もない、まさに自然の中での暮らしだった。
「生まれてからずっと物に頼って生きてきたけれど、動物としての野生を取り戻したように心が洗われてストレスがなくなった。出産だって初めてなのに、どうすればいいのか内なる声が聞こえてきたんです」
生活する金が底をつくと町に下りて赤ちゃんをおぶって歌を歌い、バイオリンを演奏した。「子連れのミュージシャン」と評判を呼んで、各地から演奏依頼の声が掛かった。
10年後に帰国してからもCDをリリースし、全国ツアーを行うなど活躍している。
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静岡県出身。ほとんどテレビも見ず、音楽も聴かずに育った。
「既製の音楽にとらわれないのはそのせいもあるかな。私の曲は作っているんじゃなく、胸の中に流れて来るもの。だから生みの苦しみはない。今までもそうだったし、今の生き方を続ける限り、これからもずっと流れて来てくれると信じています」
大切な人に裏切られて起き上がる元気もないくらい落ち込んだこともある。そんな時、ふとギターを手に取ってみると、やはり心に音楽が流れてきた。
「でも、失望し、恨んでいるはずなのに流れてきたのは違う歌。心の奥にある、本当の自分の思いだったんです。信じている、いつかまたきっと出会えるんだっていう竏秩B歌はいつも本来の自分を見せてくれる」
「人は歌を通して人生を分かち合うことができるんです。コンサートで私の歌を聞いた人が自分の人生を呼び起こされ、大切なことを思い出せるような…。そんな歌を歌っていきたい。私も音楽によって生かされているんです」
(白鳥文男)