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2511/(月)

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天竜川上流を訪ねて

ハッチョウトンボから白鳥へ

天竜川上流を訪ねて

天竜川の源流諏訪湖。ここには、冬になると遠くシベリアからコハクチョウが越冬のために飛来する。コハクチョウは、春、5月頃から産卵し、一ヶ月ほどでヒナが孵化。9月の末頃、シベリアが厳しい寒さの季節を迎えると、沼や川が凍りつき、エサを探したり、泳いだりできなくなるため、日本を目指して約4千キロの空の旅が始まるのだ。 こうして、北海道の湖などで羽を休めながら、その一部のコハクチョウたちが諏訪湖にやってくる。
 諏訪市在住の珪藻研究者飯島敏雄さんによれば、コハクチョウたちが暮らす北シベリアの湖と諏訪湖には、同じ種類の珪藻が存在することが確認されており、「コハクチョウのエサの中に含まれていた珪藻が、糞などを介して運ばれたもの」(飯島さん)と推測されるという。
 天竜川源流の水は、コハクチョウといういきものを通して、世界の水環境とつながっていると言えるだろう。
 また、天竜川が太平洋に注ぐ河口の砂浜には、絶滅危惧種アカウミガメが産卵に訪れることが知られている。アカウミガメたちは、天竜川が運んだ砂に新しい命を託し、孵化したアカウミガメたちは、遠く赤道直下まで太平洋を移動し、やがて20年後に再び同じ砂浜に産卵にやってくると言われている。ここでも、アカウミガメといういきものを通して、世界にその環境がつながっている。
 伊那市新山小学校では、約1年前、珪藻研究者飯島敏雄さんを迎えて、学校近くにあるハッチョウトンボが生息する湿地の水を調べる授業を開いた。その授業の中で、新山には貴重な水環境があり、日本でも珍しい珪藻が存在していることを確認している。そこで、新山小学校では昨年夏、その湿地の水がやがてたどりつく天竜川河口へ、アカウミガメの卵に出会う旅に出かけ、その貴重ないきものたちの存在と自分たちのふるさとがつながっていることを知った。
 そして、この冬、自分たちのふるさと新山から天竜川を上流にたどり、諏訪湖の鳥たちに出会う旅に出かけた。

天竜川上流のいきものたち

天竜川上流を訪ねて

今回、新山小の子どもたちを諏訪湖で待っていたのは、諏訪湖白鳥の会事務局長の花岡幸一さんと、長年白鳥たちの個体識別を続け、記録している西村久司さん、そして飯島敏雄さん。
 諏訪湖白鳥の会は昭和58年に正式に活動が始まり、現在会員は約20人。30代から70代まで、主婦や会社員など、幅広い年齢、職業の仲間が集まり、10月から3月までの毎日、交替で一日2回のエサやりを続けている。また、今回の新山小のように、訪れる子どもたちに諏訪湖の自然環境の大切さを伝える活動も続けている。「諏訪湖を通して自然を身近に感じてもらい、それをきっかけに環境を考えてもらえればうれしい。エサやりだけが会の活動ではなく、昔のような自然豊かな諏訪湖になることを願っています。昔は、水草が豊かに繁茂している場所もたくさんありましたが、コンクリート護岸が増えたことや、汚水が流れ込んだことなどにより、減ってしまいました。でも、最近では少しずつ復活する動きもあります。コハクチョウや水鳥をもっともっと身近に感じて、自然を感じてほしいですね。それが願いです」(花岡さん)
 この日は、毎朝諏訪湖白鳥の会の皆さんがエサやりをしている午前7時過ぎに、子ども達も諏訪湖半に集まり、エサ保管小屋からエサを運んでコハクチョウや水鳥たちへのエサやりを体験。冷たい冬の朝、毎日続けられている活動の一端を知り、また、諏訪湖を第二のふるさととして暮らす水鳥たちを間近で観察した。
 今年は、昨年10月25日から飛来がはじまり、1月上旬までに約120羽のコハクチョウが飛来している。

コハクチョウの歴史を知る個体識別

天竜川上流を訪ねて

西村久司さんは、現在フリーのカメラマンをしながら、コハクチョウの個体識別を続けている。
 諏訪湖にコハクチョウが飛来したのは、今から34年前の昭和49年。その年から、林俊夫さん(元小学校教諭)が、1羽1羽を正面、と左右からカメラで撮影して記録し、名前をつけて個体のデータを記録していた。個体識別の主な手がかりとなるのは、くちばしの模様。そのわずかな特徴の違いをとらえ、記録していく地道な作業だ。
 林さんが亡くなった14年前から、その記録は西村さんに引き継がれ、毎年60羽縲・0羽のコハクチョウの写真を撮影して記録しているという。コハクチョウは、一度ペアになると一生同じ個体と過ごすため、毎年観察、記録を続けることで個体の歴史、家族関係を確認することができるため、現在諏訪湖に飛来しているコハクチョウの中で最長老「ちーまる」は21シーズン、そのペアの「ちょんこ」は18シーズン諏訪湖で冬を過ごしていることなどがわかっている。
 新山小の子どもたちは、西村さんが投げるエサを上手に口でキャッチするコハクチョウたちのかわいらしい様子に歓声をあげながら、1羽1羽の特徴や歴史を聞き、コハクチョウたちにより親しみを感じている様子だった。
 また、西村さんの提案で、まだ名前がついていない幼鳥の名付け親になることになり、「にいやま」と命名した。西村さんによれば「にいやま」は、1歳の若いコハクチョウで、人懐っこく、人間が湖岸にやってくるかわいらしい性格。子どもたちと諏訪湖をつなぐうれしい新しい絆が、この日生まれた。

天竜川上流を訪ねて

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水は世界とつながっている

天竜川上流を訪ねて

飯島敏雄さんの授業では、コハクチョウたちがエサを食べた湖岸から水を採取し、顕微鏡で観察。コハクチョウのふるさとシベリアの湖と同じ珪藻は、この日は確認することができなかったが、たった一滴の水の中に、ミジンコなどのちいさないきものがたくさん生きていることを知ることができた。
 飯島さんは、「諏訪湖の水は世界とつながっています。諏訪湖の水やいきものを知ることは、世界の水や環境を知ることにつながります。そして、自分たちのまわりの水をきれいにしよう、という気持ちにつながるはずです」と話した。

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