【駒ケ根高原教会主任牧師 城村義人さん】
駒ケ根高原の林の中に建つ駒ケ根高原教会の主任牧師。
「牧師らしくないとよく言われます。自分でも牧師になるとは思っていなかったし、周りの人たちも驚いたくらいですからね」
父が牧師の家庭に生まれ育ったが、牧師の息子という境遇が嫌でたまらなかった。学校でも地域でも、何かにつけ「お前は牧師の子なんだから」と言われ続けたからだ。
高校卒業後、沖縄の大学に進学。父の知己の教会に下宿することになったが、「大学生になったのに、これからもずっと教会で暮らさなければならない。もういい加減うんざりだ」。幼少時から積もりに積もった不満がついに限界に達し、ある夜、牧師の留守を狙って夜逃げするように教会を飛び出した。
その後の数年間、教会には一切近づかなかった。大学には通ったが、牧師の息子であることも隠し通し、クリスチャンであることさえ誰にも言わなかった。
「やっと教会から解放され、自由になった気がした。夜、飲み屋で仕事をしたりして、自分ではそんな楽しい生活に満足しているつもりだったが…」
卒業が近づくにつれ、自分の生き方は本当にこのままでいいのか竏窒ニ次第に疑問が募り、引かれるように教会に足が向いた。3年ぶりだった。だが、いまさら堂々と顔を出せる立場ではない。人目を避けて夜中にこっそり忍び入った。暗い礼拝堂に近づくと、ふと祈りのための黒板が目に止まった。その中に思いがけず自分の名前があるのを見つけ、驚いて読んでみると『城村君のために祈りましょう』と書かれてあった。牧師の字だった。
「ショックでした。飛び出したまま好き勝手をしていたのに、牧師はこうしてずっと心配してくれていたのかと思うと、涙があふれ出てたまらなかった。これまでの自分の考えと行いを悔い『神よ、降参します。帰ってやるべきことをします』と誓って心からの祈りをささげました」
翌朝、父に電話し「牧師になりたい」と伝えた。
◇ ◇
牧師の仕事の大きなひとつに結婚式の司式がある。駒ケ根高原教会では2002年の献堂以来、式を挙げたカップルは千組以上にもなる。
「結婚式でカップルの門出の手伝いができることは大きな喜びであり、幸せです。でも、牧師の仕事は式を挙げて終わりではなく、実は結婚式の後に始まるともいえる。結婚は決して楽しいことばかりが続くわけではないですからね。夫婦のさまざまな悩みを聞いて助言してあげることが大切な仕事なんです」
「ここで式を挙げた夫婦が気軽に帰って来られる教会であり、牧師でありたいですね。せっかく結婚したのだから、何年たってもずっと幸せでいてもらいたい。私の夢はね、この仕事を通じて上伊那の離婚率を下げることなんですよ」
(白鳥文男)