(12)松原悦夫さん(60)
駒ケ根市中沢中割そば処柏屋店主
「場所も場所だし、田舎丸だしのそば屋にしたい。そば粉をはじめ、薬味の野菜も、1品料理の食材も中沢産にこだわった」-。
1昨年11月末に駒ケ根市中沢、中沢保育園南にそば処「柏屋」を開店、1年2カ月が経過し「1度来店していただいたお客様が『またくるでー』と言って、友だちを引きつれて来てくれるようになった。ぽつんと1軒だけのそば屋で、うちのそばを食べようと来てくれるお客様の期待にこたえようと精神誠意、心を込めて打たせていただいている」。
駒ケ根市中沢中割、農家の長男に生れた。上伊那農業高校林業科に学び、卒業後中沢森林組合に入った。林業技術員として、組合員や作業員の指導をした。チェンソーとトラックが普及し、山作業は手作業から機械化が進んだ。昭和50年代になると、同規格の用材でいつでも間に合う外材の輸入材が増え、地元材は敬遠されるようになった。今、また森林の持つ多目的機能がクローズアップされ、森林税の導入が検討されるなど、林業を取り巻く時代の変遷を現場で見てきた。
「第2の人生を早めにスタートしよう」と定年まで4年を残して退職した。
そば打ちとの出会いは15年前、中沢公民館の男の料理教室でそば打ち名人、宮沢勝人さんから教わり、初めて打った。「自分が打ったそばは市販のそばと比べ、格段においしかった」。以後、手打ちそばの味にひかれ、「なんとか、おいしいそばを打ちたい」と、県内の評判の店を食べ歩いた。「ボソボソと切れてしまうのはどうしてだろうかと、本職に教えてもらった。特に八ケ岳のおんびらそば店主からは親切にアドバイスをいただいた」。
勤務の傍ら、15年間に何千食も打ち、年越しそばは毎年150食打って配った。
自分なりにほぼ満足できるそばが打てるようになった1昨年、組合を退職し「この中沢で、自分でソバを栽培し、自分で石臼挽きした手打ちそばの店を出そう」と決意。遊休農地2ヘクタールを借り、しなの1号を作付けし、田舎屋をイメージしたそば処「柏屋」を建設し、11月末に開店にこぎつけた。
中沢産ソバ粉8割、強力粉2割の二八そばはちょっと太めで黒っぽい「田舎まるだしのそばになった」。わざわざ食べに来てくれるのだからと、量も1人前200グラムと多め。薬味の大根は知人からオリジナル品種「中沢大根」の種をもらい受け栽培した。冬季限定のワサビも中沢の清流で育った本物。
特別宣伝もしなかったが、口こみで客が増えてきた矢先、趣味でなくお金をもらうことのプレッシャーで手が動かなくなった。切っていても精神が安定せず、上手に切れなくなった。そんなある日、友人が「そば屋だからといって、かしこまることはない。自分のありのまま、自分でできる精いっぱいの仕事をすればいい」とアドバイスされ、「このまま精進をつづければいいんだ」と迷いがふっ切れ、打てるようになり、そばを打つのが楽しくなったとか。
「そば打ちは奥が深い。これからも自分と挑戦し、さらにそば打ち道の奥を極めたい」と話す。
メニューは「ざる」と津南町産のナメコ入りの「ナメコそば」。「山菜そば(北秋田市産山菜)」「とろろそば(山形村産長芋使用)「かき揚そば(自家産野菜とエビ)」のほか、秋山郷風のそばがきもある。
営業時間午前11時30分縲恁゚後2時。夜は予約のみ。定休日は火、水曜日、詳細は同店(TEL83・3860)