古いものを大切に
箕輪町下古田
丸山平治さん
自宅車庫の一角にある、古材を利用して自分で作った日当たりのいい作業場。農閑期の冬場は、父親が作った「ねこ」を敷いた上で、びくを作っている。
「古いものをできるだけ残したい。少なくとも親父がしていたことはやりたい」
定年退職後、竹細工を始めた。「親父がしていたのを見ていたけど、急所がわからない」。父親が亡くなっているため、同じ地区内の人に習い、11月に山ですす竹を取り、12月からびくを作り始めた。縁と網代を組むところは1年生の子竹という柔らかい竹を使うことも教わった。
底の網代は3本ずつひろって編んでいく。始めのうちは1、2、3と数えても2本しかひろっていなくて、一回り編み終わって「あれっ」となり、またほどしたこともあったという。「網代の組み立てが一番難しい。教わってもあきらめてしまった人が何人もいると聞いた。ある程度センスもいるけど、一度覚えてしまえばできる」。今は1、2、3と数えなくとも先まで目が読めるようになった。
一つのびくを作るのに最初は3日かかったが、今は1日で仕上げる。農作業では苗の植え直しのときなどに重宝で自分でも使っているが、父親がしていたように、親戚や一緒に仕事をした人にも配った。「持って行ったら親父のがまだあるよと言われた家もあった」。そう言ってうれしそうに笑った。
小正月の伝統行事「ほんだれ様」も、三十数年ぶりに復活させた。1月8日の「初山」に薪を取りに山に行き、今年も薪が取れるようにとの願いと、作物の五穀豊穣を願う行事。町内の農家も昔は飾っていたが、現在はほとんどやっていない。父親が飾っていた当時の写真を参考に飾り、毎年続けている。町郷土博物館の協議委員をしているため、07年には「ほんだれ様」の飾り方を子どもたちに教え、今年も博物館の入口に飾った。
昔の遊びをしようという企画でウツギの笛、紙鉄砲、水鉄砲を子どもたちに教えたこともある。振り万灯やしめ縄作りも指導。近年は下駄スケート体験の講師もし、近々開く「たこ作り体験会」でも作り方を教える。
食べるものから使うものまで、できる範囲で自給自足。「自分の口に入るくらいは作ろうと思って。家中そういうことが好きでね」。ソバを栽培し自分でひいてそばを打つ。作った大豆で奥さんがみそを作り、お嫁さんは納豆を作る。うるち米などをひくとケーキも作ってくれる。
「何をやるにもずくがいる。好きだけではできない。でも、古いものはなんとか残そうと思っている。親父にいろいろ聞いとけばよかったけど、手をとって教わらなかったから、思い出してできることは教えたいと思う」
古き良きもの大切にし、子どもたちにも気持ちだけは継いでほしいと願っている。(村上裕子)