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2511/(月)

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農業を志す若者を支援するNPO法人中央アルプス農業実践塾理事長
駒ケ根市下平
大沼昌弘さん(66)

農業を志す若者を支援するNPO法人中央アルプス農業実践塾理事長<br>駒ケ根市下平<br>大沼昌弘さん(66)

 ここにくる研修生は娘や孫と同じ。自分の教えた子が嫁いでいくのはうれしいね竏秩B
 農業をやってみたいと考える学生や若者に、より実践に近い農業を学んでもらう「中央アルプス農業実践塾」を発足させたのは昨年9月。この3月から、実際に研修生が集まり、研修を開始する。これまでも、農事組合法人「大盛堂生産農場」として、述べ200人の研修生を受け入れ、送り出してきた。その体制を強化するため、NPO法人として再スタートを切った。
 「『昔田舎のおじいちゃんがくれたトマトがおいしかった』『おばあちゃんの家で食べたお米を自分でも作ってみたい』っていう子も多いに」と話す。
 ◇ ◇
 農業を継いだのは28歳の時。祖先が開墾して残してくれた広大な農地で最初に作ったのは大豆だった。
 「そりゃ、最初は『こんなに広い畑嫌だな』と思ったけどね」と笑う。
 しかし、丹精込めて育てた大豆は、愛情をかけた分だけ実りとなって応えてくれた。その瞬間、それまでの苦労など一気に吹き飛んだ。
 「よく『米や野菜と話せるようになる』っていうけど、作物は自分の息子や娘と同じようにかわいい」
 ◇ ◇
 そんな農業に40年近く励んできたが、取り巻く環境は年々厳しくなっている。中でも、地域の農業者が高齢化し、先人が培ってきた農地を耕す担い手がいなくなるという問題は深刻化している。しかし、農業大学で農業を学んだ学生すら、農業を継ぐことがほとんどない矛盾。見えない壁を感じた。
 そんな中、都会の若者と農村とのパイプを作ろう竏窒ニ、10年ほど前から都会で農業に関心を持つ若者の就農や研修を支援する「新・農業人フェア」を、東京、大阪で開始。農業に関心のある若者と直接話し、研修に来てもらおうと考えた。
 年々そのニーズは高まり、農業を学ぶ若者だけでなく、農業とはまったく関係のない分野で働いていた若者が、飛び込んでくることも少なくなくなった。
 「それこそ、最初は『今年もだめだった』って肩を落として帰ることもしばしばだったけど、今じゃ1会場に千人を超える人が集まるようになった」
 ◇ ◇
 しかし、訪れる研修生は農業について何も知らないというのがほとんど。そのため、一つひとつ丁寧に、一から教えていく。
 土づくり、病害虫の防除などの基本から始まり、市場流通や消費者対応まで。時には、生き物との向き合い方、農村での生活の仕方、生命の重みなど、座学では学べない“生きる力”そのものを伝えることもある。
 「研修生が『大切なことを教えてくれた』って話してくれた時は『本当に良かったな』とうれしかった」と振り返る。
 ◇ ◇
 研修を終え、若者たちは独立する。この地で就農した人、別の県の山奥で農業を続けている人、大学の講師となった人などさまざまだが、ここでしか得られないことを学び、今を生きている。
 「田舎では農業を始める若者への見方がシビア。『すぐに嫌になるんじゃないか』って考える人も多いけど、一番大切なのはそうやって若者が田舎に入ってきてくれた時、その子たちを支えてあげる周囲の環境があるかどうかだと思う。何にせよ、農業を続けていることはうれしいし、研修生は自分の娘や孫と同じでかわいい。そうした若者が、農村に定着してくれればというのが、ぼくらの願い」

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