全国を見て郷里の良さを改めて実感 板山総代 伊東基博さん(63)
やっぱり、川の流れのように自分の生まれ育った集落の流れも絶やしたくない。そう思うんです?。
板山は高遠町の山あいにある40戸ほどの小さな集落。中山間地で問題となっている過疎化、高齢化、野生動物による農作物被害などは、この集落でも例外なく深刻化している。
その集落を守るため、地域一丸でさまざまな取り組みを展開している。
先日は桜の季節を前に、集落内にある約80本のタカトオコヒガンザクラをテングス病から守るため、病巣を持つ枝の切り落とし作業を実施。また、現在は有害鳥獣被害対策のため、住民結束のもと、集落全体を囲う電気防護さくの設置を進めている。
「集落にある樹齢40年以上になるタカトオコヒガンザクラは見事。ここは高遠城址公園への通り道だから、その行き帰りに立ち寄ってくれる人もいるんです。小さな集落で、過疎化も進んでいるけど、春は美しいし、山では山菜やマツタケが採れる。人情も豊か。高齢化や過疎化も進む中、ますます隣同士の支え合いが重要になる。昔は“結い”といって、家族や親戚同士で助け合ってお田植をするのが普通だったけど、その“結い”に似ている」と語る。
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高校卒業後、国家公務員兼大学生となり上京、地元を離れた。仕事では出張することも多く、全国各地の実情を見て回ってきた。
板山より更に山奥深い地にある山村、瀬戸内海の離島、都市の中にある市街地?。
はたから見れば誰もがうらやむ素晴らしい環境のように思える都市も、過疎化や高齢化、商店街の空洞化など農山村地域と同様の問題を抱えている地域もあり、都会の雑踏の中で生活しているお年寄りの姿も切なく見えた。
「私たち山国の者には瀬戸内海の離島などは、素晴らしい場所のように思うけど、実際には若者が島を離れ、診療所や商店もないという厳しい現状。都市部の商店街はシャッター通りとなっていることも多かった。全国各地を見て回る中で、改めて自分の住んでいる村の良さを実感しました」と語る。
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退職を機に、3年前、地元へUターンした。自分が故郷を離れた当時とは集落の様相も変わり、気付けば、全国の農山村が抱える問題を自分の地域も抱えていた。
中でも、空家が目立つことは気になっており、今はこうした空家へ若い世代の人たちに住んもらうことができないか、考えている。
「今、板山には2軒の市営住宅があり、そこには若い家族が入ってくれている。いつからか集落に子どもの声がしなくなってしまったが、そこからは子どもの声もしてきて嬉しくなる。市営住宅でなくても、空家はたくさんあるので、そういう家に若い人たちに住んでもらえるんじゃないかと思う」
また、板山地区には市のデイサービスセンターや診療所なども充実しているため、高齢者にも住みやすい集落になるのではないかと考えている。
「川の流れのように、この集落の流れも絶やしたくない。故郷を離れた人も住みたくなるような地域にして、世代世代の人に住んでもらえれば」