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2511/(月)

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県の「景観育成特定地区」指定に向け、2年越しの活動を展開
西箕輪ふるさと景観住民協定者会の事務局長
伊那市西箕輪
山口通之さん(66)

県の「景観育成特定地区」指定に向け、2年越しの活動を展開<br>西箕輪ふるさと景観住民協定者会の事務局長<br>伊那市西箕輪<br>山口通之さん(66)

 海外を見ると、フランスなんかは100年ぐらい街の景観を守ってきた歴史がある。日本はそういう点ですごく鈍感。でも、高度経済成長を経て「何でもかんでも建設すればきれいになる」という考えから「地域の歴史にあった風景が一番素晴らしいんじゃないか」ってなってきたね竏秩B
 先月末、西箕輪地区全域を県の景観育成特定地区に指定するため、地権者の3分の2以上の同意書などを県に提出した「西箕輪ふるさと景観住民協定者会」。その事務局長として、2年がかりで活動を引っ張ってきた。今後、順調にいけば8月下旬ころ、西箕輪は県内初の景観育成特定地区となる見込みだ。
 「ここには山と畑、そこに人間の営みがある。また、意外と知られていないが、ここは先人たちがうんと苦労して水を引いてきた経過もある。西箕輪にはそういう自然や歴史、文化が織りなす日本の原風景がある」
 ◇ ◇
 1942年生まれ。日本が高度経済成長期にあった1964年に高校の教員になり、時代の変遷とともに移り変わっていく地域の姿を見てきた。
 最初に赴任したのは佐久市岩村田。地元の浅間山麓(ろく)は、観光開発のために開発が進んでいる真っ最中だった。山野やはにわかにして別荘地やスキー場へと変わり、道や店舗ができていった。地域は豊かになったかのように見えたが、開発が進む一方で「こんなはずじゃなかった」もらす地域住民の声も聞こえてきた。
 「開発は悪いことじゃないけど、特にバブル崩壊後は『これまで開発に突っ走ってきたが、果たして本当それで良かったのか』という声が高まった。そんな中『地域の人が地域のことを考えるなきゃいけない』という気運も出てきた」
 ◇ ◇
 西箕輪地区では02年、産業廃棄物の処分場建設計画が浮上したことをきっかけに景観や環境に関する議論が始まった。住民アンケートの結果、多くの住民がこの地に人一倍の愛着を持っていることが分かり、05年には西箕輪地区全体を対象とした紳士協定「西箕輪ふるさと景観住民協定」を締結。県から景観特定育成地区の話を持ちかけられたのはちょうどその時だった。
 「法的拘束力をもって景観育成を図れるってことだが、3分の2以上の同意書が必要だったり、景観計画の素案を作成しなきゃだったりとやるべきことが山ほどあったから、かなりのプレッシャーだった」と振り返る。
 そんな中、特区指定に向けた活動を開始。しかし、先を急ぐより、住民に理解してもらうことを最優先しようと決め、説明会やワークショップ、景観ウォーキングなど、さまざまなイベントを開催。特区指定への理解を求めるとともに、この地区の景観の素晴らしさを改めて知ってもらうための取り組みを展開した。そんな活動の結果、景観計画案の同意を得ることもでき、住民の3分の2以上の同意書も集まった。

県の「景観育成特定地区」指定に向け、2年越しの活動を展開<br>西箕輪ふるさと景観住民協定者会の事務局長<br>伊那市西箕輪<br>山口通之さん(66)

 それでも、同意書集めが一番苦労した。回収率の悪かった区では、会長とともに家回りを実施。ある宅を訪れた時のこと、家の中から高齢の女性が出てきた。その女性は病弱らしく、特区の活動のことを知らなかったが、活動の趣旨を説明しすると「それはとてもいいこと。自分としてもぜひ進めてほしいと思うのでぜひ頑張ってほしい」と、強く後押ししてくれ、その思いに励まされた。
 ◇ ◇
 特区指定の活動は、西箕輪地区に住む人たちが“景観”に対する思いを共有する機会になったと実感している。今後は、西箕輪地区のことをもっと深く知ってもらうための活動ができないか模索している。
 「景観は自然、文化、歴史を含むもの。この地域にも、素晴らしい銘木や文化遺産などがある。その一つひとつを、地域のみなさんと一緒に発掘する機会を持てれば」

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