伊那市富県の旧庄屋屋敷保存活用で郷土文化再創生へ
地域生活文化道場「伊那庄屋館」プロジェクト始動
伊那市富県にある、かやぶき屋根の旧庄屋屋敷を郷土文化の技と志を学ぶ場として再生を目指す、地域生活文化道場「伊那庄屋館」プロジェクトが動き出した。新しい日本を創造する市民のためのネクストリーダー養成学校「NPO法人一新塾」(東京都)の21期生有志でつくるプロジェクトチーム「地域生活文化道場チーム」(八木晴之リーダー)の取り組み。所有者の埋橋さち子さん=伊那市山寺=から空家になっていた屋敷を借りて保存活用し、「郷土の文化再創生」をコンセプトに地域活性化の拠点として新たな命を吹き込もうとしている。
旧庄屋屋敷の埋橋邸は、3年前に埋橋粂美さんが亡くなった後、妹のさち子さんが相続したが、ずっと空家になっていた。
デザイン研究室主宰で一級建築士の八木さん=神奈川県=が、07年11月に知人と訪れ、すっかり屋敷にほれ込み、一新塾の同期5人で今回のプロジェクトを始めることにした。
「古くていい建物がどんどん無くなる実情を危ぐしている」と八木さん。「古い建物を日本人の誇りとし、古いものを大切に生かしていく社会を作りたい。それを実現する場として、放っておくと朽ちる建物に命を吹き込みたい」という。
一方、埋橋さんは、「“第3の家”“第3の家族”をしたいという夢があった。故郷のない都会の人に家を提供し、伊那の人には山菜採りの帰りなどに寄ってもらい、近所の人には田植えや稲刈りなど折々に五平もちを作って…と、人のくつろげる家を作りたかった」といい、プロジェクトの申し入れを「とてもありがたい」と快諾した。
親族の一人、埋橋勇さんも「こんなうれしい話はない。互いに力を合わせて盛り上げ、一緒にこの家を再生したい」という。
プロジェクトの始まりとして13日、準備中現状見学会を開き、東京方面から一新塾の関係者や友人ら10数人が訪れて周辺を散策したり、屋敷の中や土蔵を見て回った。
3年ぶりに囲炉裏に火が入った屋敷では、埋橋さんをはじめ親戚らが10人以上集まり、五平もち、セリの天ぷら、ノビルのごま和え、おやきなど郷土料理で都会からの客をもてなし交流した。
人が住まなくなった屋敷は痛みがひどく「崩壊直前」で、今後の具体的な道場の活動として、まず障子の張替えから取り組む計画をしている。
「新たに箱物を作らずに、屋敷をコミュニティセンターとして草の根的な取り組みで地域の活性化を図る」考えで、屋敷を登録文化財にして維持することも視野に入れつつ、将来的には「庄屋サミット」開催の夢も抱いている。