エッセー集「風景の中の人びと 伊那谷の里山今昔点描」出版
箕輪町
赤羽稔章さん
「一番印象にあるのが農村の戦前戦後の風景。今となっては全てが思い出になるが、そこには自然の風景があり、セミが鳴いていたり、ニワトリの声がしたり、音も自然も必ずくっついている。戦争中で食べるものもない状況だったが、それでも今とは違う温かな暮らしがあった。それを書きたいと思った」
生まれ育った伊那市高遠町荊口の風景、子ども時代の思い出、父母との関わり、今の暮らしの中での思いや散歩のことなどをつづったエッセー集「風景の中の人びと 伊那谷の里山今昔点描」を出版した。
長野県内の公立小中学校で教員を勤め退職。現在は長野県陸上競技協会上伊那支部陸協副会長(日本陸連S級公認審判員)を務めている。
出版は今回が3冊目となる。1冊目は「実南天」(1998年)、2冊目は「残月の小道」(2003年)。いずれもエッセー集で、「実南天」は教員時代の作品や妻の看病の様子、「残月の小道」は小さいころのこと、教わったことなどを自然と結びつけて書いた。
「何かもう1回出してみたい」。そんな思いで06年の始め、高遠のころのことを書いた3、4編の短いエッセーを手に東京の郁朋社を訪ねた。「やりませんか」という言葉をもらい出版を決め、同年の暮れころから本格的に執筆を始めた。
「うそは書けない」と高遠町誌、三義村誌などを参照し、取材もし、表現にもかなり神経を使った。
「小さいとき、夕焼けはいいな、山の中はきれいだなと感じていた。山の中で子どもが大勢いたわけではない。小学校の同級生はたった5人。孤独ではないけど、寂しかったんだと思う。寂しいから自然の美しさに引かれ、感じたのかもしれない」
ずっと心に残る自然の美しさ、心の風景が全編を通じてつづられている。
「160ページの本にするのは大変だったけど、仕上がった本を手にして、これが本かなと思った」と満足の1冊になった。
教員時代、文集に寄せた作文を読み、涙してくれた同僚がいた。「ぼくの作品を読んで感動してくれる人がいるなら書いてみよう」。そう思い、始めた執筆。何かを表現したいと、作詞や書にも取り組んでいる。
手元に届いた真新しい本の題字は自らが書いた。4月下旬、全国の書店に並ぶ。(村上裕子)