伊那ケーブルテレビジョン
向山公人社長
上伊那・輝く!経営者・その後 - 新たな挑戦 -
伊那ケーブルテレビジョン株式会社
◆ 本社/伊那市伊那4983番地1
◆ 設立/1984(昭和59)年6月
◆ 資本金/2億円
◆ 従業員/26人
◆ TEL/0265・73・2020(代)
◆ FAX/0265・76・3934
◆ サービスエリア/伊那市、箕輪町、南箕輪村の全域
◆ 08年3月末現在のケーブルテレビ加入世帯は26229戸(加入率63・8%)。年間千縲・500戸平均で増加し続けている。インターネット加入4729件。デジタル切り替え(導入)7003戸。
国の方針で、アナログ波によるテレビ放送が2011年7月には打ち切られることになった。それに伴い、地上放送のデジタル化が全国で進められ、長野県内では06年4月にNHKが、続いて同年10月に民放4局がそれぞれデジタル放送を開始した。
ケーブルテレビ各局もデジタル化に対応するため、慌しい動きを見せたが、その中でも伊那ケーブルテレビジョン(ICT)の取り組みは早かった。
ICTがデジタル放送を開始したのは05年11月。アナログ放送が終了する11年をにらみ、混乱しないように早めに切り替えよう竏窒ニ、専従スタッフを投入するなどして作業を急いだ結果、県内ではNHKや民放4局に先行する形になった。
放送開始から2年半後の08年3月末には、ICTの専用チューナーを設置してデジタル放送を見る世帯が7003戸にまで増えた。県内のケーブルテレビ局の中ではもちろん高い普及率を誇る。
デジタル化のための設備には、07年度だけでも5億円以上を投資。累計では10億円を超えた。その資金は、自己資金、借り入れのほか、私募債発行で賄った。
巨額を投じた整備の主な内容は、同社と利用者世帯をつないでいる伝送路の改修と、デジタル波を受信し、各家庭に送信(双方向サービスでは受信も)するための基地装置「ヘッドエンド」の設置。
「ヘッドエンド」は、伊南地区を網羅するケーブルテレビ局「エコーシティー・駒ケ岳」と共同で設置することで、コストの軽減を図った。さらに、旧長谷村(現伊那市)のケーブルテレビ施設が市の方針で本年4月から同ヘッドエンドを活用するようになり、情報の共有範囲が伊那市全域に拡大した。
向山社長はこれまでの経緯を振り返り、「デジタルへの移行は、それほど大きな混乱もなく、だいたい計画に沿った形で進んでいるが、デジタルそのものがまだ十分理解されていない。アナログ放送終了直前にデジタル切り替えが集中するようなことがあれば、対応できないので、順次理解を求めていく必要がある」と話す。
東京キー局の番組を県内のケーブルテレビでデジタル再放送することへの同意がキー局からまだ得られていないなど、課題も残されている。現在アナログで放送しているキー局の再送信を2011年以降もしばらく継続させる方向を求めるなど、ケーブルテレビ局経営者のねばり強い交渉は続く。
デジタル化をきっかけにケーブルテレビ局間のハード(設備)の共有が進んだが、一方で、ソフト(自主放送など)の共有にも向山社長は力を入れてきた。
同社長が会長を務める「上伊那ケーブルテレビ協議会」。1995年に辰野町から飯島町までの5事業者で発足したが、その後合併などがあり、現在はICTのほか、エコーシティー駒ケ岳と辰野町内2局の計4局が加盟している。
同協議会は、上伊那で行われる高校野球、サッカー、ミニバスの試合、カラオケ大会などを協力取材し、共通自主番組として放送してきた。情報の相互提供手段は録画テープのやりとりが中心だが、ICTとエコーシティー駒ケ根間はケーブルがつながっているため、生中継を両局同時に放送することも可能だ。
向山社長は「経済圏、生活圏が拡大し、ごみ処理や福祉サービスなど、市町村単位では対応し切れない状況になっている。情報供給も横の連携が必要」と強調する。
情報の共有は、県内のケーブルテレビ10局をネットした長野県ケーブルテレビ協議会でも進められ、県議会一般質問、諏訪湖花火大会、御柱祭りなどの様子が県内各地で同時に見られる。同協議会の副会長を務める向山社長は「新規に設備をつくるのではなく、今ある施設をいかに有効に運用、活用していくか、ということなので今後、共通の放送はさらに拡大充実していくと思う」と期待する。
「今ある施設(伝送路など)を最大限有効に運用、活用する」という向山社長の思いは、災害情報の提供にも生かされている。
06年6月、ICTは伊那市と「災害時の応援協定」を締結。その直後に、梅雨前線停滞による「7月豪雨災害」が発生し、天竜川の堤防決壊など上伊那各地に大きな被害をもたらした。災害時の正確で早い情報提供の必要性を痛感したICTと市は、緊急時に一般番組の画面に割り込んで必要な情報を流すシステムを開発し、翌07年1月、「伊那市緊急放送割り込み告知放送」の運用を開始した。
そんな災害発生時に、最も情報が必要とされる場所の一つが避難所。ICTは行政の要請を受け、伊那市、箕輪町、南箕輪村がそれぞれ避難所に指定している小中学校や公民館などでもICTの放送が見られるよう、ケーブルを完全整備した。
さらに、昨年10月には緊急地震速報サービスの実験を開始。本年3月にシステムを本格スタートさせた。サービスの仕組みは、緊急地震速報を配信する気象庁からデータを受け、ケーブルテレビのネットワーク網を活用してエリア内へ地震到達予測時刻と予測震度を伝えるもの。希望する世帯は専用端末機を設置(購入)するだけで同サービスが受けられる。向山社長は「これはあくまでサービスの事業だが、この地域が東海地震防災対策強化地域に指定されていることもあり、個人、企業を問わず、これから本格的に普及していきたい」とする。
伝送路システムの活用は、医療福祉サービス部門にもあてはめて考えている。
「例えば、上伊那福祉協会の施設にはウチのケーブルが全部入っている。その伝送路を利用して端末機をつければ、医師会、病院などとも連携して、血圧測定など入居者個々の健康維持管理ができる。医者が行かなくてもデータをストックできる。すでに南信濃などでは診療所とつないでタッチパネルで使えるようになっている」。さらに「水道メーターなどもデジタル化すれば、市の水道局が検針しなくても済む。行政絡みの問題だが、凍結による水道管の破裂など、監視もできる」と広がりに期待する。
「いずれにしても生活に関連するものに有効だが、医療などは特に絶対外部にもれてはいけない情報なので、それなりのしっかりした体制を組まなければいけない」
向山社長は県議、伊那商工会議所会頭の重責も担う。長野県、伊那市の課題についても聞いた。
竏窒「ま、上伊那の産業・経済に求められているものは何か。
竏抽e市町村でこれだけ企業立地を進めても、担い手の確保、人材確保をしていかないと継続性がない。先日、ある企業でこんな話を聞いた。「かつて駒工、箕工など職業高校から企業に入った人たちがいま課長、部長級の中核になって立派にやっている。ところが今は、教育システムが変わってしまい、その人たちが直接地元就職じゃなくて、専門学校へ行ったり、大学の工学部へ行ったりして、そのまま帰ってこない」。上伊那は求人倍率が高いが、中身をみると、求職側はなかなか自分の入りたい会社へ入れず、企業側からすれば求める人材が入らないというミスマッチがある。市と一緒になってなんとか教育システムの中に人材育成を入れられないか、考えている。一つには、県の工科短大的なものを南信へ設置して、今の技術専門校と一緒にした形にしてグレードアップし、ものづくりに役立つ人材を育成していけるシステムをなんとかつくろうじゃないか、と市と話をしている。工科短大は上田市にあるが、長野県は県土が広いから南信に1カ所ああいうものを設置することによって、ただI・Uターンを求めるのではなく、ここで地元の優秀な働き手を育成しようというシステムを構築し、企業の要望にこたえていく。その中で団塊の世代の技術者を講師にした・ス技術の伝承・スも考えられる。
人材を確保・育成するために必要な地域の魅力という面では、公共交通網が整備されていないことも問題。去年も市長とJRへ行って、とりあえず、「特急あずさ」を朝晩1本ずつ飯田まで入れよ竏窒ニ申し入れた。公共交通を整備することが地域のグレードアップ、企業立地、人材育成、取引先の拡大につながる。
竏茶潟jア新幹線についてはどう考えるか。
竏昼蘒P根商議所と各町村の商工会に呼びかけて行った企業アンケートの結果を上伊那のリニア建設推進期成同盟会長の小坂樫男市長に提出しBルートを要請。JRや国土交通省にも働きかける。なぜBルートが必要なのか、ということをアンケートさせてもらったので、回答集計によって各企業がどういうことを想定しているのか、どんなメリットがあると考えているかが分かる。販路拡大、人材交流などを期待する回答が見られる。
竏茶潟jアの駅についてはどうか。
竏茶潟jアのスピードから考えると長野県で駅はひとつが妥当。松本空港を含め、長野県のどこに駅をつくれば県にメリットがあるのか、決めていかなければ。アクセスとして飯田線の活性化の問題も絡んでくる。名古屋へ行っている特急「しなの」と特急「あずさ」をアクセスすることによって、地域の人たちが目的によって「あずさ」を使う、「しなの」を使う、リニアを使う、そしてそれをアクセスさせてシャトルバスなんかで松本空港の活性化にもつなげる。県のプラスになるように駅を考える。