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オザワ燃料
小澤陽一社長(57)

続 - 上伊那・輝く!経営者

オザワ燃料<br>小澤陽一社長(57)

 澄んだ空気を突き抜けてさんさんと降り注ぐ太陽の光、2つのアルプスから途切れることなく流れ出る豊富な水、どこまでも続く緑の森林…、そんな豊かな地域資源を有する伊那谷で、それらを有効活用した自然(エコ)エネルギーの普及に積極的に取り組む会社がある。伊那市のオザワ燃料。社長の小澤陽一さんは、ガス、灯油等の化石燃料及びその関連機器を販売する一方で、木質ペレットや小水力発電など自然エネルギーの普及に努める。「自分のおやじたちが炭やまきを供給してきて、やがて燃料革命で固体から液体、液体からガスになり、また元に戻ってペレットや炭が注目されている。考えさせられるものがある」。しみじみ語る言葉の裏には、信州の山を愛する小澤さんの環境負荷への危惧、地球の自然への熱い思いがある。(竹村浩一)
◆有限会社オザワ燃料
◆本社/伊那市境東1687番地1
◆創業/1951年10月
◆資本金/300万円
◆従業員/12人(パート含む)
◆TEL/0265・72・2921
◆FAX/0265・78・4403
◆主な業務は、各種燃料の販売と、暖房器具・風呂・ガステーブルの販売・設置・管理。それに、本社の一角を利用して開催しているパン教室に関連した器具・食材の販売や「小型エコ発電」が加わる。扱う燃料はガスが6割、灯油が2割を占めるが、木炭や木質ペレット(成形固形燃料)の売上も少しずつ伸びてきている。「小型エコ発電」は、最近各地で注目を集めている小水力発電装置の販売。小澤社長は「まだ、商売としては考えていない」と言うが、民間、行政からの問い合わせなども徐々に増えてきている。

 伊那北高校から立教大学に進み、社会学部で観光を学ぶ。卒業後は、観光(リゾート)開発の仕事にかかわりたい竏窒ニ、長野市の北野建設に就職。しかし、オイルショックの影響で、希望していた業務「ランドスケープ・デザイン」(総合的環境空間の計画・設計)ではなく営業に配属される。「フラストレーションを感じながら」(小澤さん)、それでも各地を忙しく飛び回る。2年が経過し、大型店建設にかかわるなど、仕事にも自信が持てるようになってきたころ、伊那市で「オザワ燃料」を経営していた父・勲さんが脳梗塞で倒れた。小澤さんは長男。きょうだいは姉と妹。倒れた父親に代わって母・志げ子さんが一人で会社を切り盛りしている姿を見かねて、北野建設勤務を続けながら毎月末の日曜日には集金などを手伝うようになった。
 そんな状態が2年ほど続いたが、顧客は徐々に離れていった。
 「小さな商売といえども、お客さんがいるということは大事なこと。お客さんのおかげで、ぼくは大学へ行けた。帰ってきて商売を継ごう」と決心した小澤さんに迷いはなかった。ちょうどそのころ入社を誘われていた伊那市の建設会社に「おやじの代からの商売を守らにゃいかん」と断りのあいさつをし、本格的に家業を継いだのが26歳の秋だった。

オザワ燃料<br>小澤陽一社長(57)

 産業革命以来、石炭・石油などの化石燃料が大量に使われるようになり、地球を覆う二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの濃度が急速に高まった。それに伴う深刻な地球温暖化は、さまざまな弊害を地球上にもたらしつつある。
 そんなCO2の排出をなんとか抑えようとする世界的な動きの中で、化石燃料に代わるエネルギーが注目されるようになった。その一つが木質ペレット。最近の原油価格高騰で、コスト的にも石油系燃料の単価を下回り、さらに人々の関心を集めている。
 木質ペレットは、間伐材などを粉砕、乾燥、圧縮、成形した木質固形燃料。接着剤などは一切使用していないところが特徴で、原料は100%木材。形は直径6縲・ミリ、長さ10縲・0ミリの円筒形。まきなどと違い、保管するための場所を広く確保する必要がない。
 ペレットの最も大きなメリットは、燃焼に伴い発生するCO2の量にある。化石燃料は何億年も前の地球上に存在したCO2を今の世に放出しているため、現在の地球を覆うCO2量を増加させる一方だが、ペレットの燃焼から出るCO2の量は、その原料となっている木が大気中から吸収したCO2量に限られるため(カーボンニュートラル=CO2の吸収と排出の量が同じ)、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の増加を抑えられる。
 さらに、原料の木材を身近なところで調達でき、間伐材の有効活用にもつながるなど、メリットは多い。
 上伊那では「上伊那森林組合」が04年から、独自の工場でペレットを製造している。
《ペレット普及へ》
 地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の排出を削減する・ス地球にやさしいペレット・スがこれまで普及しなかった理由の一つに「単価」がある。「石油に比べてペレットは高い」との意識はいまだに根強い。
 しかし、最近の原油高騰で単価はすでに逆転している。小澤さんは「灯油とペレットを同じ熱量で比べると、ペレットが2割くらい安い」と換算する。
 ペレットストーブの購入についても、伊那市では補助金が出るので、40万円ほどのストーブを30万円くらいで購入できる有利性がある。さらに、まきのように割る労力が必要なく、保管場所に悩むこともないため、一般住宅で取り入れるケースも増えつつある。
 一方、企業でもペレットストーブを導入する例が増えている。「環境に対する意識が高い会社ほど積極的に採り入れている」と小澤さん。伊那市のイチゴ園でハウス栽培の暖房用として試験的に導入する例もあり、さらなる広がりが期待される。
 オザワ燃料でも、伊那市内の2小学校に11台のペレットストーブを設置するなど、少しずつ販売台数を伸ばしている。
 ペレットの用途はストーブが主だが、大型ボイラーの燃料としても使われる。伊那市内では、保育園や温泉施設など公共的施設での導入が見込まれている。
 オザワ燃料では大型ペレットボイラーを扱っていないが、小澤さんは「ウチはとりあえずストーブだが、小型の家庭用ボイラーはいずれ扱いたいと思っている」と言う。小澤さんによると、家庭用小型ペレットボイラーはまだ研究段階だが、数年のうちには開発されるのではないか、とされている。ストーブと大型ボイラーだけでペレットを普及させるには限界があるため、家庭で通年使用する小型ボイラーの出現に小澤さんは期待する。

 「先を見て、どんな生活スタイルがこれから望ましいかということを考えると、やはり循環的な生活をしなければならない。使い捨てでなく、物を大事にする。そうするとエネルギー供給分野では、循環的な自然エネルギーになる。森林整備の間伐材を有効利用しながらCO2を削減できるペレットや、いくら使ってもCO2を排出しない小水力発電などはまさにそれ」と力説する小澤さんが、ペレットと同様に小水力発電の普及にかける思いは強い。
 山登りが好きで、恵まれた信州の自然をこよなく愛する小澤さんは、自然や環境に関係する各種団体に所属している。その一つに、小澤さんが会長を務める「伊那谷自然エネルギー研究会」(伊那商工会議所が主管)がある。県の小規模事業経営支援事業の補助を受け04年に発足。自然エネルギーの活用に着目し、地域産業の振興につなげようと活動している。
 同研究会はこれまでに、小水力発電の実証実験施設を伊那市内3カ所に設置。データを取りながら維持管理を続けている。発電機セットはいずれもオザワ燃料が取り寄せたベトナム製で、最大出力は200縲恊辜純bト。発電で生じた電気は地元の街灯などに利用され、住民からは実験期間の延長を求める声も聞かれる。
 オザワ燃料がこれまで販売した小型水力発電機は、研究会の実験用3基のほかに2基。数はまだまだ少ないが「小水力発電のことは自分が好きでやってきて、商売としては考えていなかったが、研究会で設置したことで照会がくるようになった」と小澤さん。
 商用電源のない場所、例えば山小屋や牧場、農業作業場、養魚場などで常用電源としても活用できる小水力発電の普及もまだ緒に就いたばかりだ。
 ◇ ◇
 徐々に理解が深まりつつある小水力発電だが、さまざまな障害もある。その最も大きなものが「水利権」と「売電単価」。
 伊那市内の企業から「小水力発電をすぐに導入したい」との要望が小澤さんに寄せられたことがあった。同企業の工場排水と近くの農業用水路を使用すれば発電が十分可能だったが、農業用水路の水利権が前に立ちはだかった。「設置場所はあるのだが、水利権の問題がね」と小澤さんは残念がる。
 日本には農業用水路が無数にある。そこには国土交通省、土地改などの水利権が絡む。小澤さんは水利権の壁の解決には権利関係の整理、規制緩和など、法改正を含む構造的な改善が必要とした上で「これからは徐々に用水組合や土地改も用水を使って発電し、それを中部電力に売って用水路の維持管理をする動きが出てくると思う」と今後に期待する。
 しかし、その「売電」がもう一つの構造的で深刻な問題となっていることも事実だ。
 03年に施行された「新エネルギー等電気利用法」は、新エネルギー(風力、太陽光、地熱、小水力、バイオマス)を普及させるため、電気事業者に対し、一定量以上の新エネルギーを利用して得られる電気の利用を義務付けている。そのため、電気事業者は新エネルギーを自ら発電するか、他から購入・取得しなければならない。
 ところが、小水力発電で得られた電気の買い取り価格が、日本は極端に安い。
 小澤さんは「日本の小水力の買い取り価格は1キロワット当たり9円。ドイツは60円、韓国は90円くらいと聞いている」と現状を嘆き、「小水力推進の政治連盟に働きかけるなどして法改正をしてもらうしかない」とする。

自然・環境への熱い思い

オザワ燃料<br>小澤陽一社長(57)

 小澤さんの自然、環境への熱い思いは、所属している関連研究会・委員会等の多さからもよく分かる。伊那谷自然エネルギー研究会(会長)のほか、長野県小水力利用推進協議会(副会長)、南アルプス研究会(前会長)、長野県環境保全協会(会員)、上伊那広域連合ごみ処理基本計画推進委員会(委員長)…など。
 なかでも、南アルプス研究会の発足に携わり、初代会長として活躍した経験は、その後の小澤さんが展開してきた自然エネルギー普及活動の原点ともなっている。
 小澤さんは、北野建設に勤務していたころ、長野市周辺の山に関心を抱き、登山を始めた。伊那へ戻ってから地域山岳会「伊那山の会」へ入会。毎年正月は冬山で迎えるほど、山の魅力にとりつかれた。そんな中で、知り合いの高校教諭と共に、南アルプスへ自然環境教育の拠点施設を整備する計画を練り始め、1987(昭和62)年に2人で「自然教育研究会」を設立。89年に名称を「南アルプス研究会」とした。
 当時、南ア仙丈ケ岳(3033メートル)直下には避難小屋があったが、その周辺の糞尿が大きな問題になっていた。ティッシュペーパーが散乱したり、ごみも目立った。小澤さんは「山岳人として、また、全国から来てくれる登山者を受け入れる側として、何とかしなければいけない、という思いがずっとあった」と振り返る。
 研究会は93年、避難小屋直下の藪(やぶ)沢の水質調査を開始。大腸菌に汚染されていることが分かった。小澤さんらは、そのデータを環境省に持ち込んだ。国立公園の第一種特別地域での小屋建設は非常に困難だが、「詳細なデータが環境省を動かし」(小澤さん)、翌年に建設許可が下りた。
 建設された「仙丈小屋」には、研究会の提言で風力・太陽光発電が取り入れられ、その電力は小屋の汚水処理に利用されている。
 04年からは、山小屋を環境教育の拠点にする試みも継続。利用者を対象に、仙丈ケ岳周辺の環境問題・植生、仙丈小屋の発電・汚水処理方法などについて会員が説明している。
 「われわれの研究会は、長谷村の活性化が目的。長谷村の地域資源は何かというと、森林と水」と小澤さんが言うように、研究会は・ス山村の維持・スに向け、豊かな地域資源を利用した・ス地域内循環システムに基づく自立的で循環的な地域づくり・スを目指した各種研究、提言を続け、山小屋「長衛荘」の水力発電などにもそれが生かされてきた。
《パン教室でコミュニケーションづくり》
 オザワ燃料の本社(境店)を訪れる人々を、なんとも言えない甘い香りが歓迎する。同社がほぼ毎日開講しているパン教室で生徒たちが焼くパンやケーキの香りだ。講師は小澤社長の妻、周(ちか)子さん(54)。すでに20年続いている教室で、県内各地から86人の生徒が通う。パン部門と洋菓子部門の全11コースがあり、内容の質の高さでも知られる。
 同社の建物のかなり広いスペースを占める教室には、ガスオーブン8台、パン生地の発酵器4台、パンこね器7台などの設備がずらりと並ぶ。中でもパンこね器は周子さん自慢の備品。「これで時間をかけてじっくりこねると味や歯ごたえがまったく違います」と言う。
 周子さんが教室を開いた動機は「人の集まることがしたい」「手作りのものを子どもたちに味わってもらいたい」だった。そこから導いた答えが「パン作り」。下伊那で保育士をしていた経験も教えることに生かせそうだった。それと「経営的に多少なりとも夫の手助けができるかもしれない」という気持ちも少しあった。
 雑誌を通じて知った「ジャパンホームベーキングスクール」の名古屋本校へ通って技術を身につけ、オザワ燃料本社の移転に合わせて教室を開講。「安心できる選び抜いた材料と優れた技術でおいしいものを」をモットーに生徒を増やしてきた。
 同教室に通う生徒の中には、講師や教師の資格を有し、実際に教室を持っている・ス生徒・スも何人かいる。講師以上の資格を持つ生徒を教えられるパン教室は県内にはあまりなく、そんな上級の生徒らを教えるため、周子さん自身も毎月名古屋本校に通い、新メニューを学んでいる。
 周子さんは「出来たパンを近所の人に分けてあげると、喜んでもらえる。そこから地域のコミュニケーションが生まれる。それも大切なこと」と話す。
 教室の講習料は1回につき2千縲・千円(コースにより異なる)。毎回、焼きたてのパンやケーキを持ち帰ることができる。
《私から見た小澤さんとその取り組み》
小牧崇さん(60)
 伊那市富県の自宅裏の農業用水路に個人で小水力発電装置を設置、自宅屋根にも太陽光発電システムを備えるなど、原発に象徴される大規模集中型のエネルギーシステムを小規模分散型・地域自給型のシステムに転換することを目指す。伊那谷自然エネルギー研究会が伊那市内3カ所に設置した小水力発電実証実験装置のうちの1基も、個人設置装置のやや下流で稼動している。今春まで高校教諭として活躍。伊那北高校で教えていたとき、当時PTA会長の小澤さんと知り合い、意気投合した。
 ◇ ◇
 「欧州、特にドイツなどは、自然エネルギー利用が進んでいる。ドイツは国が自然エネルギーに金を注ぎ込んでいる。日本は原子力に金を使っている」
 「自然エネルギーを得るための好条件が日本にはそろっている。太陽光発電は低緯度(赤道に近い)ほど有利。日本はドイツより赤道に近い。水力発電についても、欧州などは川の流れが緩やかだが、日本の河川は落差が大きく、大きなエネルギーを得られる。さらに日本には水田が多いから、農業用水路が網の目のように整備されていて利用できる」
 「自然エネルギー研究会ができた、と聞いた時は、せいぜい10人くらいでやるのかな、と思っていたが、研究会には毎回50人くらい参加者があった。小澤さんには人を集める力があるし、その熱弁も魅力になっているかもしれない。南アルプス研究会での活動など、彼は先を考えている。条件の揃った伊那谷を・ス自然エネルギーの里・スにしたい。それに向けて個人で取り組んでいる人もここには多い。長期的に国、県、市が支援してくれるような体制が必要だが、個人と行政をつなぐ位置で小澤さんが活躍している」
寺澤茂通さん(47)
 上伊那森林組合のバイオマス・エネルギー室長。伊那市高遠町上山田の木質バイオマスエネルギー製造施設で木質ペレット燃料「ピュア1号」の製造を指揮する。07年2月に制定された「伊那市地域新エネルギービジョン」の策定委員会で同じ委員の小澤さんと知り合う。
 ◇ ◇
 「有識者が集まった伊那市地域新エネルギービジョン策定委員会で小澤さんは・ス新エネルギーは絶対に推進すべき。策定に当たっては地域に合った新エネルギーを自分たちで考えて提起していくことが大事・スなどと、熱弁を振るっていた。小水力発電に関しても、伊那には適した場所がかなりあると言われていたが、以前からそういうことを研究されてきたこともあって、力の入れ方が違うと感じた」
 「小澤さんはよく・ス燃料屋として化石燃料も売っているが、さかのぼれば昭和の初期はまき屋だった。ペレットを扱うということは昔に戻っていくようなもんだ・スって言っている。そういう気持ちもあってか、この地域に合った燃料として、新エネルギービジョンでも一番にペレットを推薦していただいた」
 「伊那市内の小学校にペレットストーブを設置したとき、子どもたちが・ス火が赤い・スって驚いていた。このごろは庭でたき火をすることもなくなり、子どもたちはガスの青い炎しか見たことがない」

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