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【高遠断酒会】

【高遠断酒会】

 酒を飲み続けていると誰でも侵される可能性がある病気、アルコール依存症。きっかけは人によりさまざまだが、定量を超えて飲み続けることが原因の一つともいわれる。多くの場合、自分でも気付かないうちに酒量が増え、次第に一日中飲まずにはいられない状態となる。進行すると精神的、肉体的な禁断症状が現れていつしか職を失い、家庭は崩壊。社会的信用もなくなり、体を壊してついには死に至る竏秩B
 酒をやめられないのは性格や意志の弱さゆえではない。脳への作用によって体がアルコールを求め、自分の意志で飲酒を止められない状態に陥っているからだ。アルコール依存症は、回復はしても完治することはないとされる。10年、20年と断酒していても一杯の酒で再び元の状態に逆戻り。酒の量を控えても駄目で、再発しないためには一生酒を断つしかない。だが、酒を飲みさえしなければ何ら普通と変わらない生活を送ることができる。
 ◇ ◇
 「断酒会」は1958年、アルコール依存症に悩む人たちの自助組織として高知県で生まれ、5年後には全国ネットワークもできた。高遠断酒会は78年に発足。向山金治さん(77)が会長を務める。
 「20歳ごろから飲み始めたが、当時の写真を見るとどれも一升瓶を持っている。結婚してからも勤め先のロッカーの中や弁当の底に酒を隠して、朝でも昼間でも飲んでいたよ」
 体を壊して入院しても、体調が少し良くなるとまた飲んだ。母や妻が泣いて頼んでも「自分で稼いだ金で飲んで何が悪い」とはねつけた。
 45歳の時、その母が亡くなったことで「今やめなければ一生やめられない」と断酒を決意。仲間5人とともに高遠断酒会を発足させた。
 断酒会の例会は依存症の会員が定期的に集まり、それぞれの悲惨な体験を語り合うことで酒害の恐ろしさを互いに再認識する。同じ思い、似た体験を共有する人の話を聞くことで疑似体験ができ、二度と酒を飲むまいという気持ちが強くなる。妻や子に暴力をふるい、家庭がバラバラになったことや、死ぬほどの苦しみを味わった体験を涙ながらに語る人も多い。依存症の被害者側ともいうべき妻や子も出席して体験談を語る。これを地道に繰り返すうち、断酒生活が身についてくる。断酒会は依存症の泥沼からはい上がるための大きな助けになっているのだ。
 「おかげでその後30年間飲んでないよ。いや、一度だけ断酒会の帰りに飲んでしまったことがあったが…それだけだ。会を立ち上げた手前、逆戻りするわけにはいかないから」
 事務局を務める嶋村直人さん(53)は仕事そっちのけで酒びたりとなり、妻に愛想を尽かされて離婚するはめになった。
 「飲み過ぎで体が動かなくなったが、それでも酒は離せない。ある日ついに血を吐いて病院送り。酒をやめるために断酒会に入ったが、やめるのは苦しい。歯を食いしばって耐えた」
 1年たち、2年たつと苦しさも徐々に和らぎ、断酒に半信半疑だった周囲の見方も違ってきた。断酒のかいあって離婚から6年後、妻との復縁がかなった。
 「地獄を見たければ依存症の家、極楽を見たければ断酒の家竏秩B仕事から帰って『ただいま』と言うと返ってくる『お帰りなさい』の声、家族皆で囲む食卓での何げない会話と笑顔。普通の家庭のそんな小さな幸せを今はかみ締めている。生きていてよかった」
 (白鳥文男)

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