箕輪町松島・田畑恵一さん(63)
今年7月初旬、郵便局の簡保の旅でチェコ、スロバキア、ハンガリーを8日間の日程で訪れた。「お金にはかえられない楽しい旅でした。感動があるうちに描こうと思って…」。初めて訪れた街で、感動に心ふるわせた景色を描いた水彩画10点を、箕輪郵便局ロビーで展示している。
最も印象に残っているのは、町全体が世界遺産のチェコのチェスキークロムロフ。「チェスキー城は、おとぎの国、夢の国に行ったような景色。本当に今まで行ったことのない素晴らしい景色」だった。展示作品も、チェスキークロムロフの街並みなどを描いたものが一番多い。
改築に600年をかけたというプラハ城内の聖ヴィート大聖堂。「東寺の五重塔がたしか完成までに56年かかった。長い年月だと思ったけど、600年というのは本当に…」。長い歴史を感じながら眺めた大聖堂も、優しい色彩で描いている。
これまでにもパリやローマを訪れ、その感動を絵に残してきたが、「今回は自然の造形ではなく、人が造った街。世界遺産の美しい街を見てきた。こんなきれいなところがあるんだなと感心した。造った人たちの思いを無駄にしたくない。滅多に行けるところではないので、自分だけでなく、こんなきれいな美しいものがあることを知ってほしい」。そんな思いを作品に込めている。
子どものころから絵が好きで、高校では美術部に所属。3年生で県展に入選した。卒業後、自衛隊に入隊。絵を描くどころではなかったが、長野県に戻って勤めるようになり4、5年のブランクを経て再び絵筆を持った。
「明るい、見て心が安らぐのが絵だと思う。美しく、心が晴れ晴れする絵を描くのが信条」
75年に南信自動車を創業。忙しい仕事の合間をぬって、夜にデッサンし、夜と昼では色が違ってしまうから-と色は昼間に塗る。伊那市出身で仏在住の画家、安川博さんの帰国時にはいつも指導を仰ぐが、自己流で描き続けている。
「年をとってくると手が震える。細かいことができない。女の人の瞳やまつげを描くときは息を殺して描くが、若いときみたいにはいかない。東山魁夷のような人は、年をとってもあんな美しい絵を描く。やっぱり天才だなと思う」。若いころとの違いを感じつつも、「人に見てもらえることが楽しみ」と、風景画や人物画など、時間を忘れて絵を描くことに没頭する。
水彩画は色を塗り重ねない。色を作ってから塗っていく。「一回変な色を塗るともう駄目」。そんな難しさはあるが、地の白さを残すように塗るのだという。
「作品を見ている人が、ここちょっと塗り足りないんじゃないか、私が塗ってあげようか、と思わせるくらいが一番いいんです。そういうふうに塗っていきたい」