伊那谷に輝いた化学工業の光【II】
上伊那経済人が語る池上房男さん
伊那毎日新聞創刊50周年記念
伝承 上伊那経済の牽引者たち
大明化学工業相談役の池上房男さんを、上伊那の経済人たちはどのように見ているか? ルビコン登内英夫会長、タカノ堀井朝運相談役、伊那食品工業塚越寛会長-の3人に聞いた。
「技術に生きる人」
池上さんは、私がこの近辺で一番尊敬する経営者だ。研究熱心。ミョウバンとか工業用ルビーとか、いつも大学や工業試験場と共同で研究していることを話してくれて、それがとても興味深く刺激になった。「技術に生きる人」という印象だ。
人柄的にはとても温厚で、偉ぶるところがまったくない。人間誰しも、人の悪口の一つや二つ言うものだが、池上さんからは聞いたことがない。いろいろな話をおとなしい口調でしてくれて、その中に必ず技術の話が入ってくる。ああいう人を「経営者」というのだろうね。
誉めてばかりにきこえるかもしれないが本当にそうなんだ。
昭和40年代後半に、北殿一帯の工場団地が出来はじめの頃いろいろ協力させてもらったが、あの頃はまだあの辺は葦が生えていたんだよ。いろいろなことを一緒にやらせてもらって幸運だったと思っている。
「経営哲学が素晴らしい」
素晴らしい経営者だ。一見、おとなしくて目立たないが、自分が正しいと思ったことは必ず実行する。昔から品質管理についてよく勉強されていて詳しく、しかもそれを自分で実践してきた。政治に一線を引いてきたところも私は良いところだと思っている。
なにより、しっかりした経営哲学を持っている。企業経営者の中には、哲学を持たずに、その時その時で態度を変える人が多いが、池上さんの場合は、自分の哲学を会社の中にじっくり浸透させて、首尾一貫した会社経営をしてきた。
経営者協会上伊那支部や伊那労働基準協会、警察官友の会などで、お付き合いさせてもらい、ものの考え方を教えていただいた。
大きな声でこうしろ、ああしろとは言わないが、池上さんがこうだと言えば、皆それに従うほどの強いリーダーシップをお持ちだ。
「目的」と「手段」-学んだ
「本来あるべき姿」を語る哲学的思考をされる方だ。企業の目的は「人間のため」であり、そのための手段が「企業収益」だ。この目的と手段を取り違えてはいけない-ということを教えていただいた。労働組合についての考え方など意見の違うところもあるが、経営者としての根本を学んだ「師」だ。そのことは私の書物(「良い会社をつくりましょう」=文屋刊)にも書かせていただいた。
異業種交流会という組織があり、ご一緒させていただいたが、「新製品の共同開発」を求めてくる方が多い中で、「困った時に助け合うことこそが真の目的」と話されたことが印象的だった。企業は本来従業員に生涯雇用を保証するべきだと、苗木栽培の構想を打ち出されたこともあるが、それをヒントにして私もいろいろと考えている。「人間尊重」の精神を経営に貫いた方だと言えるだろう。