定年退職以来20数年-ボランティアで街掃除
伊那市荒井区 竹内荘一さん(82)
きれいな方がみんな気持ちが良いだろうと思ってね
伊那市の街を毎日掃除する。
JR伊那市駅や伊那北駅、県伊那合同庁舎や「いなっせ」の一帯。ほうきとチリトリを手に一生懸命働く姿を目にしたことのある人は多いだろう。
竹内荘一さん。82歳。「きれいな方がみんな気持ちが良いだろうと思ってやっているだけだよ。だから、あんまり大きく書かんでな」と笑う。
完全なボランティア。定年退職後続けている段ボール回収のアルバイトで、毎日、荒井区上手町の自宅から伊那北駅近辺を通る。その時に、ゴミなどが目に付いた所を、仕事が終わった後に1人で掃除するのだという。
取材の日も伊那市駅の駅舎周り・トイレを掃き、雑巾掛けし、痛んだ箇所を修理していた。最後の仕上げは自転車置き場の整理。乱雑に乗り捨てられた自転車を、一台一台並べなおした。
数日前には、伊那市駅の敷地でコンクリートのひび割れ箇所を補修していた。補修用の資材などはどうしているのか?と聞くと、「そりゃ誰かがくれるわけじゃないから、自分で用意したんだよ。今回はあとで駅が出してくれてうれしかったよ」と苦もなさそうに語った。聞けば、駅の東側の石積みの修理や、草取りも一人でしているのだという。
「ほっときゃ草がぼうぼうさ。誰もやらねえんだから、ワシがやりゃあいいんだよ」
退職してから始めた。でもいつからかは正確には覚えていない。「20年位になるのかな」という。
掃除をしていれば顔見知りが増え、声をかけてくれる。通りすがりに道を聞かれ、案内することもある。「ウチにいたんじゃ、そんな経験もできないよ。それが楽しいからやっているんだ」という。
もちろん嫌なこともある。壊れたところを修理し、きれいに掃除した駅のトイレに、若者が落書きをし、ゴミをまき散らしていく。「誰もいない時に悪さをするんだ。それを思うと嫌な気持ちになる」と悲しげに語る。
20年の間に伊那の街は大きく様変わりした。「毎日毎日変わっていくな。店だったところが空家になり、車庫になりっ、てね。移り変わりだよ」。だが、中心市街地に活気が無くなっても「ゴミだけは出るんだ。すいがらとかジュースのカンとかな。人はあまり変らんちゅうことだな」。
05年の6月に60年間連れ添った奥さんを亡くした。畑に行ったまま帰らず、夜、探しに行って倒れているのを見つけた。心臓麻痺だった。以来一人暮らし。
昼間は街を掃除して紛らわせているが「夜はやっぱりチョット寂しい」と話す。
「おじさん、いつまで続けられそうだい?」「誰かにもう止めろっていわれるまでさ」
竹内さん、本当にご苦労さまです。ありがとうございます。
(毛賀沢明宏)