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2211/(金)

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第2回
押し寄せるIT化の波
-ネット利用で地方の経営はどう変わる?【上】

伊那毎創刊50周年記念

第2回<br>押し寄せるIT化の波<br>-ネット利用で地方の経営はどう変わる?【上】

 伊那毎日新聞創刊50周年記念企画の1つ、上伊那「経済時事対談」。第2回のテーマは、インターネット時代に地方企業はどう対応していくべきか。大手企業の情報システム担当者・コンピューターシステム業者・積極的にネット利用を進める地元企業担当者の3人に語り合っていただいた。
【出席者】
●遠藤和夫さん(55)KOA株式会社経営管理イニシアティブ情報システムセンターゼネラルマネージャー/長野県経営者協会上伊那支部情報委員会
●丸山慎一さん(38)株式会社仙醸企画主任
●小林正信さん(43)
有限会社キャリコ社長

ネット利用は意欲・好奇心から

第2回<br>押し寄せるIT化の波<br>-ネット利用で地方の経営はどう変わる?【上】

【司会】伊那谷にもIT化の波が押し寄せ、高速大容量のブロードバンド(以下BB)環境の整備が焦眉の課題となっています。集まっていただいた皆さんは、経営者協会上伊那支部(以下経協)や伊那商工会議所などが主催するBB活用研究会の主催者や講師の方々ですが、インターネット全盛の時代に地方企業にはどのような発想の転換や対応策の練り上げが求められているかを語り合っていただきたいと思います。
 まず、自己紹介をかねて、それぞれどのようなお仕事をされているかをお願いします。
【遠藤】KOAの情報システムセンターの遠藤です。このセンターでは会社の情報システムの企画・設計・開発、そして運用を20人で行っています。
【丸山】高遠の蔵元・仙醸で商品の企画・営業全般の仕事をしています。インターネットを使った商売は仕事の大きな柱で、それを主要に担っています。
【小林】 キャリコの小林です。コンピューターに関わる全般の仕事をするシステム屋です。リナックスというOS(コンピューター基本ソフト)をベースに、新しく・合理的で・安い価格の製品・サービスを提供しています。
【司会】 丸山さんと小林さんは、7月15日から始まるBB研究会のIT活用研修会(午後1時30分より、伊那商工会議所)の講師になっていますが、二人に白羽の矢を当てたのは遠藤さんですよね。その意図するところはどういうものなのですか?
【遠藤】 経協上伊那支部では、2年前に情報化推進の特別委員会を作っていただいた。その時には伊那谷のデジタルデバイド(デジタル通信の速度や量の不十分さで経済格差が生じること)の解消が目的だったんです。それをしないとIT化時代で伊那谷に本社や生産拠点を持つ企業は立ち遅れてしまう。新たな企業誘致だってできないと考えたんです。
 その1つの成果として04年秋にはNTTのBフレッツ(光ファイバーによる情報サービス)が一部の地域で始まったのですが、しかしそこで同時に新しい問題が生まれた。インフラ整備が進んでも、いったいどれだけの企業や商店・個人がBBを活用しようとしているのか-という問題です。だって、使わなければ何を作っても意味がない。NTTだって使う人がいなければサービスの範囲を広げるはずもない。それで、研究会の力点を移したんです。
【司会】 BBをどう活すか、どんな使い方があるかを考える方向に-ということですか?
【遠藤】 そうです。それで、仙醸さんがインターネットを通じてお酒の売上げをかなり伸ばしているという話や、キャリコの小林さんがいろいろな中小企業の方と協力して創意的なことをなさっているという話をお聞きしましたので、是非、その具体的事例を聞いてみようということになったわけです。
【丸山】 へぇ、そういう流れだったんですか。ウチとはまったく逆ですよね。今、ウチはネットでかなり商売していますが、インターネット環境は今だってすごく悪いんですよ。Bフレッツは高遠町上山田では使わせてくれない。ADSLですが、すごくナロウ(狭い)で遅い。使い勝手が悪すぎるから、自分たちで無線LANシステムを作って、自力で高速大容量にしちゃおうとかと考えたこともあるくらいです。BBの整備を業者に要求しても、どうせ高遠じゃやってくれないだろうなと、最初から諦めていた(笑)。むしろ最初から問題意識は使い方ですよね。どういう風に使って、何を発信したらお客さんの心をつかむことができるか-そこから始まったんです。98~99年頃でした。
【遠藤】 そうそう。やはり使おうという意欲のある人たちは、どう使うかと考え始める。いろいろな事例を紹介してもらいながら、意欲をわきあがらせることが重要だと思ったんですよ。
【小林】 それで仙醸さんはどういう風に使ってみようと思ったんですか?
【丸山】 一言でいえば、ネットを通じて酒造りに消費者を参加させるということです。私は最初からホームページに商品をいくら並べたって、それだけではお客さんは来ないだろうなって思ったんです。酒造りの技術やうんちくをいっぱい盛り込んで、仙醸のページを見ると勉強になると言ってもらえるものを作る。それだけじゃなくて、例えば酒が発酵する過程のもろみの様子をライブカメラで流して、酒造りのプロセスを公開してしまう。そういうことをすると、日本酒が本当に好きなニッチ(層としては狭いが好奇心が強い部分)な人がきっと見に来てくれる-と。
【遠藤】 えぇ!?ノウハウを見せてしまうんですか?ノウハウを公開してしまうと、同業者とかで真似するところが出てきませんか?
【丸山】 まぁ酒造りのプロセスはほとんどどこの蔵も同じですからね。品評会に出す特別なものの核心的ノウハウは別にしても、大体のところは大丈夫なんです。日本酒業界では「1人1仕込み」とか「桶買い」とかという、オリジナルブランドづくりで、醸造タンク1本丸々買うというような商売の仕方もあるんです。だったら、それの行程を、遠くにいても全部自分でチェックできるような、酒造りを40日間楽しめるというような売り方があったっていいじゃないか、それにはネットを使うのが一番だな-と発想したんですよ。まぁ、まだそこまで行ってませんけどね。

「プロセスの共有」で生まれる付加価値

第2回<br>押し寄せるIT化の波<br>-ネット利用で地方の経営はどう変わる?【上】

【小林】 今の丸山さんの指摘は、単にモノを売るということでなくて、顧客とモノ作りのプロセスを共有するということだと思います。この考え方は、現在のネット利用の主流になっているもので、製造業はもちろん、農業などでも、こういう手法で客を集め・販路を広げようという動きが多いですね。
【丸山】 ネットで途中経過を見るというような形でお客さんを工程に巻き込めれば、それは固い顧客になりますからね。
【小林】 インターネットの良い点は写真の枚数や文章量など紙媒体では制約があったものが、かなりのボリュームでも手軽に扱えるということ。このことによって、時間的経過を追うというような、かつては表現が難しかったものが表現しやすくなった。だから、ある商品を、それがどのように作られるかのプロセスも見せて注目を集め・売っていくというのはネットの特長を活かした使い方だと思うんです。
【遠藤】 なにか良い具体例をご存知ですか?
【小林】 小売業ではありませんが地元のある建設業者は土木工事の過程をライブカメラで流して、現場代人の日記のようなものをブログという、まぁ誰でも見て利用できる日記帳のようなものに書いて掲載しています。これなどは、その建設会社が何を考え、どのように仕事をしているかを社会にアピールする面白い方法ですよね。そういうのって、結構読まれていて、静かに注目を集めているんです。
【遠藤】 インターネットというのは、各個人がそれぞれの問題や関心を満たしていく上では最適のツールですよね。調べようと思ったら、今ならかなりのことがネットで分かる。そしてそういうツールの普及によって、人々の消費行動が、購入以前にその商品に関わることを入念に調べる方向に動いていますね。それに応えるようなネットの利用法が小売業では重要になっている-とこういうことですね。

ネットを利用する企業の戦略・企画力がカギ

第2回<br>押し寄せるIT化の波<br>-ネット利用で地方の経営はどう変わる?【上】

【司会】地方企業が参考にしたら良いような先進事例を紹介してもらえますか?まず、メーカーや小売業者が直接消費者を相手にしてネットを利用して商売する場合ということで……。仙醸さんの例がそうですよね?
【丸山】 まだまだ発展途上ですが、いろいろと試みてきた結果、04年の父の日には、「父の日の酒」という形で、金額にして約2200万円ほど売上げました。父の日にプレゼント用に、金糸の刺繍でお父さんの名前などを入れたオリジナルラベルをつけるサービスを付加して売り出したところ、予想以上の反応だった。
【遠藤】 そこに狙いを絞っていったのは何故なんですか?
【丸山】 仙醸はお陰様で地元ではそれなりに有名ですが、商圏を出ればほとんど知名度がないですよね。例えば「十四代」というお酒のように、全国どこでも名前で買っていただけるというようなブランド力はない。ではインターネットで…と言ってみても、酒蔵は2000年頃に既にどこでもホームページを開設していますから、ただ商品を並べたって、何の個性も出せない。それで、ホームページはかなり内容の濃いものにしていろいろな人に読んでいただけるようにしたけれど、ネットでの商売は贈答用の酒を軸にするという戦略をたて、それにもとづいて商品アイテムや付加サービスを考えてやってきたわけです。まぁいちおうそれが功を奏したとは言えます。
【司会】 上伊那でほかに小売の先進事例を上げるとしたら、やはり楽天に早い段階で店を出した伊那市の大原農園さんですかね。
【小林】 たしかにすごく早かったですよね。
【丸山】 あと上げるとすれば伊那食品工業さんじゃないですか。テレビで寒天を特集してからは、ネットで注文が殺到しサーバーがダウンしたそうです。やはり、情報時代ですから、テレビで何かの情報が流れれば消費者はもうリアルタイムでネットで検索をかけてきます。これに即応できる体制を整えているところは強いですよね。
【遠藤】 やはりネットを利用するにあたっても、商売の根本は企業の戦略・企画力だということですね。
【小林】 宣伝するみたいで恐縮なんですが、実は私の会社で今度、古い骨董品のような価値のあるオーディオセットをネットオークションなどを通じて世界中から集め、それをキチンと聞けるようにして、やはりネット通じて売り出すという事業を始めるんです。いろいろな商品がありますから一概には言えないにせよ、大きく商品は2極分化し始めているのではないですか。例えばティッシュペーパーのように、どこにでもあり・値段が安くて・まぁ、どれも同じような商品と、オーディオセットのようなこだわりのある人が・かなり高額でも購入するという・質の高い良い商品というように。ネットで扱いやすいのは、やはり後者です。そういう実例を示そうという気持ちもあって、次分の趣味の世界のことを事業としてはじめてみようと考えたんです。
【遠藤】 そうなんですか。私も根っからのオーディオマニアでして、なんかそっちの話の方がおもしろそうですね(笑)。

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