第2回
押し寄せるIT化の波
-ネット利用で地方の経営はどう変わる?【下】
伊那毎創刊50周年記念
伊那毎日新聞創刊50周年記念企画の1つ、上伊那「経済時事対談」。第2回のテーマは、インターネット時代に地方企業はどう対応していくべきか。大手企業の情報システム担当者・コンピューターシステム業者・積極的にネット利用を進める地元企業担当者の3人に語り合っていただいた。その連載第2回目
【出席者】
●遠藤和夫さん(55)KOA株式会社経営管理イニシアティブ情報システムセンターゼネラルマネージャー/長野県経営者協会上伊那支部情報委員会
●丸山慎一さん(38)株式会社仙醸企画主任
●小林正信さん(43)有限会社キャリコ社長
インターネットの直接間接の影響
《承前》
【遠藤】経営者協会でBBを整備しようといろいろな皆さんに呼びかけても、まだまだ、自分のところはインターネットで商売していないから関係ないという人が多いんですよ。でもね、例えば一部の家電量販店は今売上げを伸ばしていますが、それは、お客さんがインターネットを通じて、デジタルカメラの性能とか価格をとかを事前にとてもよく調べるようになっているということを見越して、そういうお客さんが質問してくることにすぐに応えられるように従業員が準備しているからだって言うんですね。ネットの普及は消費者の消費動向を大きく変えてきた。自分のところが直接関係していなくても、そういう大きな影響の中にあるということに気付かなければいけないと思うのですよ。
【小林】 価格設定1つとってみても、ネットの情報と切り離しては決められない。お客さんの方が関連づけて見ているんですからね。ただ、少しシビアな言い方をすると、小売の世界ではネットに出たからといってすぐに売上げ増大に直結しないのが実情だと思います。
【丸山】 私もそう思います。Yahoo!とか楽天とかの大手ショッピングモールに出店できたとしても、もう出店数が多すぎて、少しばかりの個性では大多数の中にうもれてしまう。はっきり言って、その中でお客さんをつかむためには、大きなお金をかけなければならず、やはり大手でなければできないという状況になっていると思います。
【小林】 現在のネットの利用状況を見ていると、どこかのホームページを見たり、そこでネット通販をするためにそのページのアドレスを入力して見に来るという人は皆無ですよね。ほとんどが検索エンジンから。そうすると、1つの小売業者だけでネットで商売をしようとなると、価格面できわめて安くて目立つか、商品の質の面で飛びぬけて素晴らしい物を出すか、どちらかしかない。でも、どちらも難しい。
【遠藤】 なるほど。でもこの座談会は、BBの活用を広げようという趣旨なので(笑)、なにか上手い方法はないか、そのあたりどうですかね?
【小林】 そうですね(笑)。まぁ既に言われていることですが1つ目は個性ある商品・サービスの創造。これは私たちがオーディオで実験し始めた線ですね。2つ目が、今日最初に議論になった商品の製造工程を公開したり、商品選択の時のアドバイスのようなことをたくさん盛り込んで、お客さんをプロセス的に巻き込んでいく方法。そして3つ目は、大手のポータルサイトではなくて、地域の・特色あるポータルサイトで地域の同じような嗜好を持つ企業がグループになって全国に出ていくというスタイル。これは、今度、ウチが協力させていただいて作っている伊那毎日新聞さんの地域ポータルサイトの試みですね。
企業間での高速大容量通信の必要性
【司会】小売業にとってのインターネットという話が続いてきましたが、製造業同士・企業同士の間、いわゆる「BtoB」では、BB整備の必要性はどうなのですか?
【遠藤】 それはほんとうに焦眉の課題です。BB活用研究会は本来そこの議論から始まったものですからね。例えば伊那谷のあるメーカーでは、開発部門が3D・CAD(3次元のコンピューター製図システム)で図面を書くと、それがリアルタイムで加工メーカーに送られていて、「こういう部品は加工可能か」「ココをこう変えたらどうか」などという議論をしながら仕事が進んでいます。図面が完成しないうちから可能なところはもう加工が始まったりもする。すでに製造業はそれが標準になっているといっても良いくらい。そうするとそれに対応できる企業でなければ注文は来ないし、またそれを支えるインフラがなければその地域は取り残されてしまう。そういう意味では本当に切迫しています。
【小林】 大手でも従来自分の会社の独自の閉じられたシステムで運用してきたものを、セキュリティには注意しながらインターネットを使って使いやすくするという動きが急になっています。工作用ロボットを、くり込みリナックスというシステムを使ってインターネット経由で制御しようという試みや、ライブカメラなどを何台も設置して施設警備や工程の掌握をしようという動きも急です。そのためにはやはり高速大容量の通信網の整備は必要ですよね。
【丸山】 例えば大手の警備会社に警備をお願いするとしますよね。でも、高遠上山田でアラームがなっても、ここに駆けつけてくるのは大変ですよ。そうすると、自前で警備システムを作って、社員が自分たちで監視したり、何かあったら駆けつけるということが問題になります。そういうことのためにはインフラはどんどん整備されるべきだと思いますね。
【小林】 やはりネットの普及によって商品価値のある情報が大手企業にだけ集中するという時代が終わり、地方の中小企業でも、あるいは個人でも使いようによっては使える時代がきていると思うんです。中小企業にとっても新しいビジネスチャンスにめぐり合える貴会が広がっている。その意味では、BB網を早く整備して、もっとその機会が生かせるようになったらいいなと思いますね。
【遠藤】 伊那市の地域情報化推進会議にも参加させていただいてますが、行政には行政の、民間には民間の、それぞれ長所・短所がある。そういう違いを補いながら、新しい時代のネット利用法を探ろうということでBB活用研究会を行っているわけです。経営者協会だけでなく、同じ志向を持つ伊那商工会議所、上伊那産業振興会、県テクノ財団伊那テクノバレー地域センターが力をあわせて4社の共催で進めており、伊那市も後援してくれています。そういう地域の力で、何か新しい展開ができればうれしいですよね。是非、丸山さんと小林さんに講師をお願いした15日のIT活用研修会(午後1時30分より、伊那商工会議所)に皆さんご参加下さい。
司会 ありがとうございました。
(司会 毛賀沢明宏)