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第1回
後継者は考える
-地方の経営者に問われる資質とは何か?【上】

伊那毎創刊50周年記念

第1回<br>後継者は考える<br>-地方の経営者に問われる資質とは何か?【上】

【出席者】
織井常昭さん=38歳=(織建専務取締役/伊那青年会議所05年理事長)
唐澤幸利さん=35歳=(伊那燃料常務取締役/伊那青年会議所05年経営資質開発委員長)
塚越英弘さん=39歳=(伊那食品工業専務取締役)
 伊那毎日新聞は05年、創刊50年を迎えました。その記念企画の一つとして、上伊那経済「時事対談」を6月より、毎月15日前後・2日間にわたって掲載します。この企画では、03-04年度2年間連載してきた「上伊那輝く!経営者」キャンペーンの特集記事を踏まえて、上伊那の産業・経済が直面している問題を、地元の事業所・企業や関係者の皆さんに順次語り合っていただく予定です。

JCが「経営資質」を考えなくて良いのか?

第1回<br>後継者は考える<br>-地方の経営者に問われる資質とは何か?【上】

【司会】伊那毎創刊50周年企画の一つ、「時事対談」の1回目は、今後、伊那市の経済を担っていかれる若手経営者、「跡取り」の皆さんに集まっていただきました。自分たちが地方で企業を経営していくためにどういう経営資質が問われていると考えているかを、語り合っていただきたいと思います。皆さんよろしくお願いします。
 では、さっそくですが、織井さんから。織井さんが理事長を務める伊那青年会議所(以下「伊那JC」)は05年度、自分たちの「経営資質向上」を重視した活動を計画していると思います。そこに力点をおく理由や経緯からお願いします。
【織井】入社11年目。現在専務です。紹介いただきましたように伊那JCの05年理事長です。
 従来JCは「まちづくり」をテーマに、青少年育成とか行政との協働とかの活動に重点を置いていました。会員はほとんどが会社の後継ぎですが、経営の問題はなんとなく触れないというようなムードがあったんです。
 自分としてはなんとなく違和感があったんですが、02年に日本青年会議所に出向し、そこで当時の松本秀作会頭-ダイクマの方ですが-が、「JCは若い経営者中心なのだから、JCに入れば会社がつぶれないと言われるような組織を造りたい」とおっしゃったんですね。それで、「そうだ、その通りだ」と思って、自分自身で「経営品質管理」などを学んだ。それが始まりです。
【司会】伊那のJCも以前はあまり経営のことを語り合わなかったのですか?
【織井】個人的には相談したり・されたりということはありましたが、組織としては機会が少なかった。でも、私自身がJCに入ったのは94年ですが、それ以来、建設会社を中心に会員の会社が5~6社倒産したんですね。そうするとその人はJCを辞められてしまう。「まちづくり」以前に「会社の経営」を学ぶことが必要じゃないかと強く実感したんです。
【司会】塚越さんは02年に伊那JCの理事長を務めていますが、その辺りの事情はいかがですか?
【塚越】入社9年目です。現在専務取締役で製造部門の責任者をしています。ウチの会社は大きいので、私は会長の息子ですが、だからといってすぐに跡取りとかという話にはなりません。その辺りのことはご理解ください。
 それで、02年のJCの話ですが、確かに当時は「ビジネス」とか「経営」とかはテーマとして扱っていませんでした。昔のことはよく分かりませんが、仕事上の人脈づくりの観点からだけJCに参加するような会員が増えた時期があって、そういうことへの警戒であまり経営上のことは話さなくなった経緯もあったようです。
 とにかく、02年に織井君が日本JCに出向して「JCこそ経営やビジネスを論じ合うべきだ」という考え方を伊那JCに伝え、その後、唐澤君や斎藤君(斎藤明05年副理事長)、それに私自身も出向して勉強させてもらいました。それで、本当の意味での「まちづくり」というのは、JC会員自身がより良い会社をつくっていくということではないのかと考えるようになったんです。
【唐澤】私は会社に入って7年目、役職は常務取締役ですが、スタンドでの接客を先頭でやっています。塚越さんが紹介してくださったように、04年に日本JCで勉強させてもらった「経営資質」や「経営品質管理」にかかわることを、ロム=伊那JCは日本JCとの関係ではロムと呼ばれる地方組織になります=に伝えることが私の仕事だと思っています。
【司会】経営の後継者たちが自分たちの経営資質を真剣に考え始めたことは、いろいろな層からかなり好感を持って受け止められているのではないですか? 
塚越-今までのものがおかしいとは言いませんが、手段が目的化してしまっていたのでは、と思うところはあります。
 まちづくりという目的のためにイベントという手段を設定しているはずなのに、イベントを組織することが目的になってしまう。そうすると傍から見れば経営者2世が自己満足で遊んでいると見られてしまう。そう言われざるを得ないような傾向はなきにしもあらず、だったのだと思います。
【織井】まぁ遊んだりすることだって必要だと思いますが、とにかく、JCという組織は経営のことを勉強しているようだから是非入れて欲しいと、新会員が増えるような組織にしたいと思いますね。

経営者として社員に思いを伝えることの難しさ

第1回<br>後継者は考える<br>-地方の経営者に問われる資質とは何か?【上】

【司会】「経営資質」を論じる時に評論家のように一般論的に論ずることもできると思いますが、じつはそれだけではあまり意味がないのではないですか? 
 やはり「私の何が欠けている」とか、「彼はどこを身につけるべきだ」という具体論で一人ひとりが考えるようにならなければ生きた経営学にならないのでは? 皆さんそれぞれは、自分の「経営資質」をどう見ておられますか?
【唐澤】「経営資質」は(1)顧客重視(2)社員重視(3)社会との調和(4)独自能力の発揮-の4つの要素から成り立っていると言われています。
 それを参考に自分について考えてみると、「お客さん第一」というテーマにかかわる自分の考え方・価値判断の基準を社員の人たちにキチンと伝えるという点で、まだまだ弱いものがあると思っています。ガソリンスタンドやってますから、お昼休みにお客さんがたくさん来られる。私は経営陣ですから、「お客さん第一」でお昼なんて後回しがあたり前。でも従業員の人に「それがあたり前じゃないか」と言っても、それは立場が違うから単純には理解してもらえないですよね。
 あと、お客さんによっていろいろなサービスをうれしく思ってくれる方もいれば、うるさいと思う方もいる。接客の時には、それを、お客さんの反応を見ながら自分で判断していかなくちゃいけないわけですが、それをどこで・どう判断するかという点を社員全体で同じ水準にしていく必要がある。そういう社員を組織するという点において私はまだまだ力不足です。
【織井】その、サービスを平均化するために社員全体の価値判断の基準を統一していくというのがまさに経営品質管理の問題になるわけですよね。
【司会】塚越さんは、いかがですか?自分の経営資質の問題……
【塚越】私の場合は、どうしても会長(塚越寛伊那食品工業会長)と比較して考えることになる。比較すればどの点でもまったく足元に及びませんが、特に感じるのは、自分の思いを人に伝えることで、私は力が足りないということです。会社ですから社員もいれば経営陣もいる。経営陣としての私は社員に自分のやって欲しいことを伝えないといけないわけですが、私はどうも自分で分かってしまうとそれで満足してしまう。伝えることが下手ですよね。
【司会】もう少し具体的に言っていただけますか?
【塚越】先日お客さんから、天草(てんぐさ)の商品について「ものが悪い」とクレームが来たんですね。対応した社員はすぐ「申しわけありません」と謝ってしまったんですが、天草は天然もので、できが良いか悪いかはじつは天候しだい。伊那食品工業では、そこまでコントロールできないです。だから、ただクレームに謝ればよいというものではない。このことを「こういう場合はこうしてください」という形で命令することはできるんですが、どんな場合にも自分で一度考えてもらえるようにする、クレームだってケースバイケースだから対応も自分の頭で考えてしようよ、こういう気持ちを伝えることって、とても難しいけれど大切な点だと思うんですよ。
 唐澤君が言ったのと重なりますが、マニュアルでは書ききれないマニュアル以上の、現場での対応を決める価値判断の基準をどう伝えるかにかかわることですね。
【司会】なるほど。では同じ質問を織井さんいかがですか?
【織井】ウチの場合、先代(織井常和織建社長)のすごいところは、少し位間違っていてもそれを押し通してしまうところですよね。しかもそれで、ことがうまくいく場合が多い。良い悪いはともかくとして、この一徹さは、自分にはまだないですよね。
 それから、そんな一徹な人だから、あまり人の意見を聞かない。でも新しいことをやろうという提案だとすぐに取り入れて「やってみろ」「チャレンジしてみろ」と言う。発明家で、特許をいくつも採った人だからなんですかね、その新しい挑戦に対する感覚は見習わなければいけないと思っています。
【司会】織建さんの場合は、どうも先代の偉大さを強く感じるということですか?
【織井】偉大ですが、もちろん僕だって負けてませんよ。建築業界は職人が多いから、昔から、お客さんの希望が何であっても「こっちの方が良い」と勝手に決めてしまうところがあった。こういうことをお客様重視の視点から変えなくちゃいけないと主張しているのは僕なんです。「顧客満足度重視」この点では先代より先に行っている。……これって、先代も読むんですかね。(一同笑い)

2代目、3代目であるがゆえの苦しみ

第1回<br>後継者は考える<br>-地方の経営者に問われる資質とは何か?【上】

【司会】今、織井さんが先代との対比で自分の課題を論じられましたが、皆さん、2代目、3代目ですよね。「社員に思いを伝えることの難しさ」を自分の課題としてあげられたが、どうですか、その点、2代目3代目であるがゆえに難しいということがあるんですか?
【織井】それはあると思います。創業者はやはり自分の信頼できる人を集めて会社を作ってきています。後継ぎは、その人間関係を継承しながら、なおかつ自分の関係を作っていかなければならないわけですから、その点はなかなか難しいものがある。
【唐澤】僕自身3代目ですが、最初はなんで僕の考えを分かってくれないんだと、面白くないこともありましたよ。学校出て、外で学んで会社に入ったんですが、そうすると、自分の会社の中で、「今の世の中、これでは通用しない」とか「いつまで古い考えでやっているんだ」とかと感じることがあるわけですよ。そういう点を指摘しようとしても「おじいさんのころから世話になっている」とか「おじいさんとよく飲みに行った」なんていう方を相手にすると、どうしても言えなくなっちゃう。そんなことは良くありましたよ。
【織井】10年ぐらい経たないとやっぱり、本当の意味で心を開いてくれないんじゃないかと思います。だって、やっぱり、跡取りの若造ですからね。一生懸命働いて、社員の人からも仕事で認めてもらって、それから初めて話は始まるというような……
【塚越】少し視点は違いますが、そういうことってあると思います。例えば、会社組織の中で、なんというか自分のカラーを出したくなるんですね。それが、本当に会社のためなのか、それともただの自己顕示欲なのか。まぁ、言葉は悪いですけどね。
 他の役員に自分を認めてもらいたい、できるところを見せたい、という気持ちが出て来るんです。そういうのが強い時ってうまくいきませんよね。そういう自分の意欲のなかみを自分で吟味しなければいけないのは苦しいことです。
【織井】少し話が変わりますが、僕は塚越寛会長さんにかつて「忙しいということは良くないことなんですよ。心を亡くすと書くでしょ」と言われて、ガツーンと衝撃を受けたことがあるんですよ。
 それまではもうがむしゃらに働いていたんですけど、それではだめだと言われた。心に余裕をもって、良い仕事をしっかりと積み重ねていく。そういうことの大切さにあの時に目覚めさせていただいた。そういうことを考えるとやはり前の世代はすごいなぁとしみじみ思いますよね。

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