第1回
後継者は考える
-地方の経営者に問われる資質とは何か?【下】
伊那毎創刊50周年記念
【出席者】
織井常昭さん=38歳=(織建専務取締役/伊那青年会議所05年理事長)
唐澤幸利さん=35歳=(伊那燃料常務取締役/伊那青年会議所05年経営資質開発委員長)
塚越英弘さん=39歳=(伊那食品工業専務取締役)
上伊那の地元企業の後継者たちが、自らの経営資質を磨かなければいけないと、行動を開始している。その動きを追った座談会の後編。
仕事への真剣さ従業員から学んだ
《承前》
【司会】なるほど。でも先代経営者からだけではなく、従業員からも学ぶことも多いのではないですか?
【織井】ウチの若い社員は、10人位いるんですが、みんな一生懸命に仕事しています。僕だって若いけど、残念ながら彼らの方が若くて、やりたいことが明確なんですね。ヘルシーハウスという建築工法のフランチャイズもやっているんですが、その関係でうちに大工の修業に入っていた人がいるんですよ。その彼が5年の修業を終えて実家の家業を継ぐことになった。そうすると、家に入る前に、1年間ニュージーランドに留学して、それから家に戻ると、さっさと決めて動いてしまったんですよ。そういう決断力とか行動力とか、改めて若い社員から教えられているんです。
【唐澤】私は、従業員の人たちから、笑顔を教えてもらいました。接客業ですから笑顔が大切ですが、いつも笑ってばかりいられないじゃないですか。ところが、いつも心からの笑顔を絶やさない人がいる。どうしてこんな笑顔ができるんだろう、これはきっと仕事に対する真剣さから来るものなんだろうなと、考えさせられたり教えられたりしています。
【塚越】じつは自分と同じ年の社員がいまして、彼は、問題があると感じると経営トップと真剣に討議し、時に怒鳴りあったりもするんですね。彼は、「私はこの会社に惚れているから、より良くしたいだけなんです」と言いますが、自分が経営者側の立場ではなく、彼と同じ従業員の立場だったら、そこまでやれるのかと思いますよね。
地位とかポジションとかを気にして動くのではない、仕事に対する熱意、真剣さ、そういうものを学ばされていると思います。
【織井】それと相通じるものを、僕は職人のプライドに感じます。自分の仕事に自信を持っている職人ほど、必ず何かにつけ自分の意見を述べてきます。良いことはなるべく取り入れるように努めていますが、こういう真剣に働いている人が意見を言いやすい環境を作るのも経営者の任務だと思います。
とにかく対話が大切。ある場合にはぶつかり合ってでも議論しないと分かってもらえないのではないかと思います。ぶつかるのって、ちょっと嫌じゃないですか、人の心情として。でも、嫌だとか言ってないで逃げないでぶつかっていくことを心がけています。
元気な企業を目指して、自分自身の経営資質の向上を
【司会】最後になりますが、皆さんが考える「元気な企業」とは何か? そしてそれを目指して自分は何をするか? をひと言ずつお願いします。
【塚越】ご存知だと思いますが伊那食品工業の社是は「いい会社をつくりましょう」というものなんですね。「いい会社をつくる」-これが永遠のテーマです。現在までに、会社の提示した方針のもとに、社員一人ひとりが自発的に行動する会社になれていると思うんです。これ会長をはじめ先輩の皆さんの努力のたまものです。
でも、これからはもう一歩先に進んで、社員が「いい会社とは何か」を自発的に考え、行動できるような会社にしていかなければいけないと思います。そのために、私自身は自分を振り返ることと、人に訴えていくこと、つまり先ほど言った「伝えること」ですよね、それができるようにならなければいけないと思っています。
【唐澤】私は元気な企業というのは、厳しい仕事、難しい仕事を、社員が生き生きと笑顔でやれる会社のことではないかと思っています。もっともっと、社員の皆さんが生き生きとしていかれるよう、自分自身は対話をもっと上手にできるようになり、同時に経営のスキルをアップして行かないといけないと思っています。
【織井】ウチは建設業ですから、家づくりを通じて社会や地域にお役に立って行きたい。社会や地域に役に立っている会社、つまり、まちづくりに役に立っている会社が元気な企業だということでしょうね。
特に建築物は作品ですから、社員が誇りを持てるようなものをつくらないといけない。本物を売りたいわけです。そのために、皆で勉強することの意義を伝えられる経営者になりたいですね。まもなく社長の立場に立たなければいけない時が来ると思いますが、その時に自分は「こういう会社にしたい」という方向性を示すことができるように、毎日勉強し議論していきたいと思っています。
【司会】ありがとうございました。
(司会:毛賀沢明宏)