伊那谷で山仕事を始めて8年目
島・ス山林塾企業組合代表 中村豊さん(41)=伊那市西箕輪=
森林の危機と林業の現状を知って欲しい
「そこの山も名目上は間伐したことになっています。自分たちがやったのではないが、あんな斬り方では森林は育たないと思うんですよ」
伊那市西箕輪、経ヶ岳の山付きにある自宅で話す。ある程度成長した針葉樹林の間伐では、森の中から空が見え、陽射しが地面に届くようにしなければ意味がない。
「立木の30%を間伐するとかと決められ、その本数を斬ったら終わり。山仕事の現状は厳しいので、収益性の観点からそういう仕事でも良しとされてしまうことがあるんです。寂しいことですよね」
細面。静かに語る。腕には、山仕事用の手甲が巻かれている。
◇
97年まで、兵庫県の県職員だった。パソコン通信で知ったKOA森林塾(製造業のKOAが94年から始めた山仕事の通年講座)で山仕事のイロハを学び、98年に伊那にIターン。講師の島・ス洋路元信大教授に教わりながら一緒に山仕事を始めた。現在8年目。同じように山仕事を始めた仲間9人で作る企業組合の代表を務める。全員が県外出身者だ。
仕事は平日週5日。朝8時に現場に集合し、午後4時までが基本。伊那市・箕輪町・辰野町を中心にして、間伐や素材生産、下草刈りなどの仕事を請け負う。
仕事の多くは、財産区や区などが所有する団体有林。個人の山。それに県の保安林などでの公共事業。間伐や下草刈りなどの作業は、県が森林育成の観点から進める補助事業の対象になっており、所有者と相談しながらどのような作業をどの程度行うかを決め、補助金申請の書類整理なども含めて請け負うのだという。
「個人の山は、現状ではほとんどお金にならないので、山仕事を頼む人は皆無に近い」と苦笑する。斬り出した木が高く売れれば良いが、輸入外材が主流の現在ではほとんど需要がない。放置しておくのが、山持ちには一番負担が少ない。「そういう人に、山の手入れを説得するのは大変。もっと実力をつけなくちゃ」と笑う。
◇
「ツルが絡まって足の踏み入れようもない山」が個人の山には多い。「間伐されずモヤシのような木ばかりになった山」が植林後40縲・0年経った山には多い。人の手が入れられずに泣いている山ばかりだという。
そうした中でも、持ち山の木を斬り出して家を作り、さらにその山に木を育てようと希望する人もいる。そういう仕事を請負ってやり遂げることが一番楽しいそうだ。
「伊那谷でも林業と聞いてもどういう仕事かイメージが沸かない人が大半になってしまった。森林のとても危機的な現状を知り、山仕事に関心を持って欲しい」
伊那谷の山に新しい生き方を求めて根づいた人は語った。