第6回
駒ヶ根-地産地消の銘菓づくり
~3年目の現状~ 【下】
【出席者】
■福沢芳史さん(52)/御菓子処ふくざわ=駒ヶ根市小町屋。
■斉藤千枝子さん(57)/菓子処斉藤=駒ヶ根市福岡。
■吉瀬徳重さん(57)/駒ヶ根商工会議所事務局長。
■佐藤初枝さん(54)/長野県上伊那農業改良普及センター駒ヶ根支所長。□司会:毛賀沢明宏
特産品づくりを産業連携で進めることを目指した「駒ヶ根竏鋳n産地消の銘菓づくり」。3年目を迎えた取組みの現状と課題を関係者に話し合ってもらった。その2回目。
農産物=素材流通のシステムづくりが重要
司会 先ほど(前号)、カボチャを丸のままではなくペースト状にして供給すれば用途も広がるという話がありましたが、地元産の農産物を地元で使う場合に、その物流システムや、加工の分担などが問題になると思います。そのあたりは、どのように取組まれているのですか?
吉瀬 先ほどの話を聞いていて気付かされたのですが、そのあたりはまだ改善の余地ありですね。この取組みにあたってはJA上伊那さんに大変な協力をしていただいた。素材になりうるどんな農産物があるかをリストアップしていただき、お菓子屋さんの方が必要となれば、その供給の方もお願いした。でも、お菓子屋さんから『こんなものが欲しい』という声を聞いて、それに見合う物を探すという方向での試みは少し弱かったかな?竏窒ニ。
斉藤 何がどんなことに使えるかというアイデアは現物を見ないとなかなか沸いてこない。それで、私はやはり市場で直接物を見て良いものを探すということが多いですね。
福沢 駒ヶ根の取組みだけれど、素材という意味では地元、上伊那の範囲で集めていますよね。そうしなければ種類が集まらない。それで問題になることは、さっきも言ったが、やはりどうしても地元産のものは割高になることなんですよ。素材は良いものもある。小豆とかだって。でも、北海道産のものに比べれば高い。そうすると、全量地元の素材で作るのではなく、地元の素材も入れるという形にならざるをえない。
佐藤 農家サイドから言えば、ある程度の量は使ってもらえることを想定できなければ、お菓子に使えるような素材を新たに栽培するという冒険はできないでしょうね。でも、少量では、市場での競争力は弱いし、栽培技術の向上も難しい。
司会 お菓子屋さんサイドから言えば、さまざまな素材が欲しいでしょうし、それを農家に受入れてもらうとなれば、かなりの多品種少量生産になるでしょうね。
佐藤 そうですね。少量でもね、確実に使ってもらえるということがはっきりしていれば、まだ可能だと思うんです。でも、それにはかなりしっかりした流通ルートが必要。しかも流通コストを削減しなければなりませんよね。地産地消の菓子作りのような場合には、それを支える小回りの効く流通システムを作らないと、本当のところはうまくいかないでしょうね。
菓子店の意見を生産者に伝える方法も大切
司会 農業改良普及センターはお菓子だけでなく、学校給食などへの地元食材の利用を推奨していますよね。その場合も同じですか?
佐藤 そうです。でも、給食の場合、衛生管理や栄養管理が難しくなって、規格品をそろえないといけない。小規模の流通システムでは対応しきれないところも出てきてしまうんです。
斉藤 お菓子の場合もけっこう同じですよ。地元の小豆は良いことには良いんだけど、例えば粒がそろっていなかったりする。小豆を煮る時には、どの粒も均一に煮あがらないと困るんですよ。それにやはり大きな産地ではないから、出荷の際の仕上げが少し足りない。ごみとか砂とかも混じっていることがある。だから、じつは、地元の物を使うときには一粒一粒、全部眼と手でより分けているんですよ。これがけっこうな手間になってしまうんですね。
福沢 そうなんだよ。例えば、ブルーベリーなんかは、旬の時には使えるけど、時期がずれると無くなってしまう。季節限定で製造する手もあるけど、それでは年間需要は出ない。そうすると、冷凍保存する大きな冷凍庫が必要になる。JAには何度か意見を差し上げたが、そういうものが無ければ、使え使えと言われても苦しいところがある。これが本音だよね。
吉瀬 いやぁ、小豆をより分ける話とか、今のブルーベリーの話とか、申し訳ない、ほんと初めて聞きました。そういうお菓子屋さんサイドの話をJAや農家、つまり生産者サイドに伝えることは重要だよね。そういうことが分かってくれば、農家の方も、いろいろ工夫するべきところが見えてくるはずだし…。すぐにそういう機会を作らなくちゃいけないな。
佐藤 菓子製造業者の話を聞くことは農家にとっても重要だと思うんです。どういう種類の生産物が、どのくらい求められるのか?品質的にはどこにポイントをおいて作らないいけないか?竏窒アういう情報がフィードバックされることが、きちんとした流通ルートを作る上で重要な意味をもつと思います。普及センターでも、地元の飲食店や旅館で地元食材を使ってもらえるように、旬の食材フェアとかを行って、生産者とそれを使う人とが出会う場を作ろうとしているのですが、そういうところに力を入れる必要がありますよね。
地域産業振興の夢をふくらませて
司会 今までの議論ではまだ触れられていない点は、お菓子の販路拡大だと思いますが、そのあたりはどのようにしてこられたのですか?
吉瀬 先ほども言ったように、JA祭と商工まつりが主な発表の場ですが、その他にも、東京のイベントに持っていったり、高速道路のサービスエリアに置こうとしてみたりといろいろやってきました。しかし、考え方としては、やはりまず地元で消費される物、歓迎される物を作る。そこから銘菓が生まれてくると思っています。販路はそれについてくる、そういう風になってもらいたい竏窒ニいうところでしょうか。
福沢 特産品から銘菓を作り、その銘菓が特産品になっていく竏窒ニ考えるのがやはり筋道でしょうね。
斉藤 そうですね。地元の人が使ってくれて、はじめて次につながる。例えば野菜としてカボチャを食べるのは嫌いな人でも、お菓子にすればおいしく食べられる。そういうものを作り出せば、お菓子もカボチャも地元での消費の道が広がり、お土産にしてもらったりして、口コミで他所の地域にも評判が広がっていく。そういう形が、一番堅実で現実的な方法だと思いますね。
福沢 そのためにはさ、販売員も重要なんだ。うちと斎藤さんがお菓子を並べていると、うちのを覗いていたお客さんに斉藤の奥さんが話し掛けて、うまいこと自分のブースの方に連れていっちゃう(笑)。有能な販売員なんだよ、この人。
斉藤 なに言ってるの、福沢さんのところがいつも一番の人だかりじゃないの(笑)。
福沢 あとは、やはり、高遠のサクラとか飯田のリンゴとか、その地域を代表するシンボル的なものを作り出さないといけない。駒ヶ根インターのアクセス沿いに並木を作るとかして、それをお菓子に使うようにすれば、インパクトが大きいと思うんだ。それに駒ヶ根市のお菓子屋はどこも後継ぎ問題を抱えているけど、家業を継ぐことに意義を見出してくれる若手も増えるのではないかと思うんだ。
吉瀬 そういう意味では、東伊那のふるさとの家のブルーベリーだよね。泊って体験できる農場をつくり、そこで地域の特性を打ち出していく。市の健康長生き構想とも一体の試みで、将来性はあると思いますよ。
佐藤 今日は、良い勉強をさせてもらいました。やはり、お菓子屋さんにせよ、農家にせよ、お客さんに自信を持って提供できるものを作ることがすべての根本だと思うんです。そのために、さまざまな立場の人が、今日みたいに集まって、どういうことが問題になるか、何を改善して欲しいかを気兼ねなく話し合うことがとても重要だと思いました。
司会 話は尽きないのですが、時間が来てしまいました。地元産の素材を地元のアイデアと技術で加工し特産品を作るという発想は、今日では、ある意味で、どこにでもある考え方だと思いますが、駒ヶ根の皆さんの先駆的な試みを通じて、ただ地元にあるものを使うと言っても、その流通システムや、当事者間の情報交換の方法などを1つづつ積み上げていかなければ、継続的で安定的な、そして真の意味で地域循環的な、地域振興の取組みはできないのだ竏窒ニいうことが鮮明になったと思います。
本日はありがとうございました。