【特集 権兵衛開通】15万7千人の苦闘(1)
立ちはだかる粘板岩のメランジュ層
2月4日、権兵衛トンネル道路が開通する。着工以来7年半の歳月と、のべ15万7千人の労力を費やして、中央アルプスを穿(うが)つ高規格道路が完成する。
特集第1弾は、困難を極めたトンネル工事の苦労を聞いた。
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「着工時には難工事とは思っていませんでした。しかし、掘り出したとたんに、想定していた地質とはまったく違うことが判明したんです」
権兵衛トンネル工事の現場責任者を務める国土交通省飯田国道事務所の建設監督官石原幸宏さんは振り返った。
98年秋のトンネル工事着工まで、地質調査は何度も行われた。当初は粘板岩主体の硬い岩盤で、比較的掘りやすい地質と想定されていた。
だが、実際に掘り出してみると、粘板岩が細かく割れた破砕帯がいたるところにあり、断層や地下水系が複雑に入り組んだメランジュ層(「混沌とした」の仏語)であることが分かった。
だが、なぜ、それほど想定が違ったのか?
「調査地点の岩盤が偶然硬かったのかも知れませんが、ボーリング調査の限界だったとも言えます」
ボーリング調査は88ミリの直径のサンプルを掘り出す形で行われた。調査する位置にもよるが、この直径では、地質に入った割れは見つけにくい。地圧で岩盤が押し付けられている状況で採取するからなおさらだという。
ところが、実際にトンネル本坑を掘るとなると、穴の断面の面積は約80平方メートル。しかも、片面は何の圧力もかからない開放した断面になるため、地中の圧力を受けて調査時には予想しなかった崩壊が始まる。「掘ったとたんにザザーと、あるいはゴロゴロっと崩れてくる。時には直径1縲・メートルの岩が圧力で飛び出してくる、そういう地層だったのです」。
断層も想定以上だった。トンネル工事現場は、奈良井川に沿って境峠断層が走っている。大きな断層の近くには、ちょうど魚の骨のように大きな断層に交わって縦に走る断層が存在するが、その規模と量が、通常をはるかに超える地質だったそうだ。
「断層と地下水、それに崩れた粘板岩が混沌として最初から最後まで続いたトンネル工事だったのです」
石原さんは前任地の安房トンネルと比べて「規模はかなり小さいが、労苦はほぼ同じ程の難工事」だったと評する。(続く)
=毛賀沢明宏=