【権兵衛開通日特集3】自然と景観を守るために
中央アルプスを突き抜ける権兵衛トンネル道路の開通は、生活の利便性と経済活動の活性化をもたらすだろう。だが同時に、交通量の増加にともなう自然環境への影響や、道路沿線への企業・店舗の進出による生活環境・景観への影響を指摘する声も多い。
開発と環境保護竏柱サ代文明が抱えてきた根深い問題が、この地でもまた問われている。
大パノラマが広がる西箕輪地区
南アを望む大パノラマ
竏柱i観保護の住民の動き
約1年前の05年3月、伊那市西箕輪の住民約1600人は、景観保全と生活環境維持のための「ふるさと景観住民協定」を締結した(協定者会長小池知志さん)。中条地区から始まり西箕輪全域にまで広がったこの動きは、人口で県内最大、面積で第2位の規模。
▽廃材など景観を阻害する物品を置かない▽建築物の高さは13メートル以内▽屋外広告物は道路から1メートル以上、交差点から10メートル以上離す竏窒ネどを記したこの協定は、伊那の平から南アルプス、遠くは八ヶ岳を望む景観を郷土の財産として守ろうという地域住民の意志の結晶だった。
こうした動きを受け、県はこのほど、権兵衛トンネル出口近くから中央高速東までの約7キロを、両側100メートルにわたって条例にもとづく屋外広告物禁止地域に指定。野立て看板や建物に付随する華美な看板を規制する措置を取った。
さらに、この条例では規制対象外になる当該地域の企業・商店の10平方メートル以下の自己用広告物については、地元住民や各界関係者、県などでつくる制定委員会(委員長伊藤精晤信大農学部教授)が、「花の谷サインシステム」と呼ばれるガイドラインを作成(05年12月)。今後、地域住民の協力も得て、企業・商店に働きかけていくとしている。
一方、木曽側では、権兵衛トンネル開通にともなう景観保護のための新たな目立った動きはない。木曽では宿場町の景観保護のためなどで以前から住民協定が結ばれており、道路網の整備にともなっては、すでに木曽広域連合が制定している「木曽谷サインシステム」(「木曽グリーン」を基調色彩にする誘導看板などのデザイン)を踏襲することになるという。
だが、経済効果の観点から道路沿線に進出を希望する企業(特に圏域外の大型店舗)は多いと言われており、開通後も、守るべき「ふるさと」とは何か、その方法はどうあるべきか竏窒フ議論が引き続き必要だと指摘する声は多い。
「花の谷サインシステム」
伊那側権兵衛道路沿線の自己用広告物ガイドラインのモデルプランとして提示されているのが、間伐材の丸太を利用し、四季折々を回りに配した「花の谷サインシステム」。ガイドライン制定委員会が行った公募により、箕輪町の一級建築士・北澤宗則さんが考案したデザインとプランが採用された。
最大の特徴は、広告物の管理責任を持つ企業・商店に、「小沢花の会」に代表される地元住民の花つくりの運動との協力を呼びかけている点。長い経験の中で培った花づくりの技術を、地域の特色として押し出そうという意図がある。企業側が適正な費用負担を約束すれば、住民側は積極的に応ずる用意があるといわれるが、強制力のないガイドラインであるため、どの程度実現できるかは未知数。
また、ガイドラインの対象地域(圏が条例で定めた屋外広告物禁止地域と同じ)以外でも、このシステムが採用されることが望まれているが、それもまた今後の議論の広がりに左右されよう。
中ア山ろくの動植物への影響は?
権兵衛道路周辺の山ろくでは、絶滅危惧種のオオタカやノスリの営巣か確認され、ハチクマやクマタカなど猛禽類が多数生息している。これらを生態系の頂点にする豊かな自然が、道路の騒音や排気ガスによってかなり影響を受けると指摘する声は多い。
クマ・カモシカ・キツネ・タヌキなどは、大型構造物が横断することで行動の制約を受ける。建石繁明元信大農学部教授は、すでに橋の欄干に巣を作るムササビがいることなどを指摘した上で、「絶滅することはないだろうが、車に跳ねられることなどはしょっちゅう起るだろう」と予測する。
また、貴重な山野草や山菜、イワナなどの渓流魚については、「経ヶ岳林道ができた頃から、乱獲が進み、もう取り尽くされちゃっているから、道路の影響は今さらそれほどないだろう」(同)と話している。