「菊香堂」社長 赤羽政治さん(46)
創業は1887(明治20)年。「高遠饅頭(まんじゅう)」で始まったまんじゅう屋さん。04年に4代目を引き継いだ。
子どものころから、菓子づくりに囲まれた環境で育ち、おのずと和菓子の道へ進んだ。東京都の和菓子屋で、住み込みで修業。帰郷して14年目に入った。
伊那市坂下区にある和菓子店「菊香堂」には、高遠饅頭(まんじゅう)をはじめ、漂泊の俳人・井上井月の「井月さん」「勘太郎笠」「羽広の観音さま」「絵島生島」「みなみみのわの実」などが並ぶ。地元の文化や歴史にちなんだ商品づくりを意識し、伊那の地をアピール。菓子を包む袋には、そのいわれなどを記す。客との雑談の中から生まれたものもある。
1月中旬には、伊那と木曽を結ぶ権兵衛トンネルの開通を記念し、米俵の形をしたもなか「権兵衛米の道」を発売した。3月31日の高遠町・長谷村との合併を控え、新たな商品を売り出す予定。
地元にちなんだ商品は、手土産に持って行った先で話題にもなるし、地域資源を再認識することにもなる。菓子を食べながら「へぇ」と感じてもらい、伊那へ来たとき、店に立ち寄るきっかけになればと考える。
新作は頭の中で構想を練り、イメージ画を描いて試作に入る。「自分でいいと思って店に出すと、いいもの、よくなかったものの反応がすぐわかる。お客さまに受け入れられなければ、商品は残る」。客の反応が創作意欲をかきたてる。
和菓子の中でも、特に季節感が出るのが生菓子。絞り、細工など一つひとつが手作りで、一つひとつに気持ちを込める。今の時期は桃の花、福寿草、スイセンなどが店頭を飾る。同じ赤色でも、四季折々でその色合いは変わるという。
桃の節句といえば「桜もち」を食べるが、今はケーキなどが出回り、子どもたちに人気。伝統の和菓子が薄れていくのを感じる。
茶席の授業で「和菓子を食べておいしかったから」と商品を買い求める高校生がいる。季節の和菓子を見直す意味で、店側からPRしていくべきと考える。
和菓子はきれいさもあるが、創作するおもしろさがある。地元の人が土産に持っていける商品、足を運んでくれる店づくりを目指す。
(湯沢康江)