伊那市消防団長 田畑安彦さん(60) 伊那市小沢区
新たな組織となり 垣根取り払われ 信頼関係構築へ
伊那市・高遠町・長谷村が合併した3月31日、各市町村の消防団が集い、新たな組織の伊那市消防団が誕生した。全団員からの推薦、市職務執行者からの任命を受け、初代新市消防団長に就任。新組織の長として、団員を統制する仕事を任されている。
20代後半の1972(昭和47)年、旧伊那市消防団に入団。団歴は20年余を数える。その間、分団長、団本部の副団長などを歴任し、旧市団長を2年1期務め、そのまま新市の団長になった。
自分たちの街は自分たちで守ろう竏窒ニいう周囲の機運が高かった時代。同級生や地域の先輩は皆、消防団に入っていたため「地域の皆さんのためにやってやろうじゃないか」と自発的に入団したのは自然の流れだった。
当時の旧伊那市消防団の団員数は2千人を超える大所帯。その後、機能性を図るために定員を千人に削減し、消防装備が充実してきた1981年には約700人になった。しかし現在は、毎年、団員補充をやりくりするのに精一杯だという。
「今は少子化の時代。社会環境条件も変わり、地元に残る成人男性も少ない。会社の都合などで入団できない人も多い」
消防団は組織を形成し、住民の生命、財産を守ることを使命とする奉仕者の集まり。これは日本の文化で、海外には存在しない概念。任務を遂行するために危険な場所へ出向くことは容易ではない。胸には辛い経験とうれしい経験が刻まれている。
火災・水防・人命検索などの現場で、自分のことのように一生懸命に活動に取り組む団員。自分の力が及ばず人命を救助できなかった時は悲しみ、災害を最小限に抑えられた時は喜ぶ竏窒ネど、その時の熱意を味わえる。団員の気持ちを感じ取ると「今の世の中、捨てたものではないな」と実感するという。
いかなる災害現場に行っても、周りの住民が応援してくれることが励み。昨年の伊那市入舟の放火事件では、地域住民が自主防災会を組織するなどして、活動を支えてくれた。
「地域の皆さんからの感謝の気持ちは、なによりもうれしい」
市町村合併により、守るべき市民数は増え、守備範囲は拡大。団員それぞれの連携を再構築しなければならないため、当初は円滑な活動が困難になることが予想される。
新市の人口は7万4千余人と県内81市町村のうち7番目に多く、面積は668平方キロメートルで3番目に広くなった。消防団員数は定員1156人と、上伊那全体の団員数の約3分の1の人数を抱える。
これまで行政の境界線内を活動エリアとしてきた3団。今後はそれぞれの境が関係なくなることで、消防団の出動区域が変更される。より近くの分団が活動に向かえるように組み替えるため、団員の今までの認識を実施訓練を通して改めていきたいと話す。
しかし、合併による期待も大きい。以前は首長の指示がなけれは他市町村への応援出動はできなかったが、消防団員の機能と各分団の装備の機動を最大限に生かせることで、合併した効果が表れるという。
例えば、広大な自然と大地を抱える長谷地区。今までは約100人の団員が活動に従事していたが、これからは高遠町の三義、河南地区から応援に駆けつけることができる。
これまでの垣根を取り払い、信頼関係を築きあげていく新消防団。「自分たちの地域は、自分たちで守る」奉仕者たちの活躍に、市民の期待も高まる。
妻、娘と3人暮らし。JA上伊那家畜診療所の機能嘱託員、上伊那獣医師会長。