伊那小学校「桜守」 6年勇組(北條由美教諭・33人)
樹木の・ス言葉・ス聞きながらともに成長
「サクラの花が咲いたよ!!」
例年通り南庭の木からつぼみがほころんだ。校内にはソメイヨシノを中心に、シダレザクラ、コヒガンザクラなど合計57本が植わる。そのほとんどが満開となって、学びやをピンク色の花びらで包み込んでいる。
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夏は緑の葉が木陰をつくり、秋はきれいな紅葉が広がり、冬はじっと寒さを耐え忍ぶ…。勇組33人は、開花するまでの一年間を見守り続け、樹木が語り掛ける・ス言葉・スに耳を傾けながら治療に取り組む、伊那小学校の「桜守」だ。
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桜守になろうと思った契機は3年生の時。南庭にあった一本が、夏を過ぎたころに切られた。「なぜ…?」と児童たち。長い年月を重ねて年を取ったその古木が、台風で折れて倒れてきたら危険だ竏窒ニ、切除されてしまったのだ。
総合活動を利用して4年生の2学期から本格的に桜の調査・治療に取りかかる。ソメイヨシノの寿命は一般的に50縲・0年と言われているが、学校にある古木の樹齢は80歳を越える。児童たちは一人1縲・本の担当で、すべての桜の健康状態を調べ、皆で協力しながら治療を始めた。
むやみやたらに手を掛けても、寿命を短くしてしまう恐れがあった。インターネットや、樹医の専門書などで積極的に勉強。「天下第一の桜」といわれる名所、高遠城址(し)公園の桜守・稲辺謙次郎さん(61)=伊那市高遠町=からも学び、多くの知識を吸収している。
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樹齢80歳の木といえば、自分たちの祖父母と同じくらいの年。「桜を救いたい」との思いはより強く、地域の人も脱帽するほど熱心に活動している。
枝を間引いたり病気を持った部分を剪(せん)定するためのノコギリ、治療用の薬品などの購入費は、校内で育てた野菜や花を売ってまかなう。切った桜の枝がもったない竏窒ニ、こまや鉛筆立てに加工し、販売もしている。
桜についての知識も豊富だ。枝がほうき状に異常成長し、栄養分を奪う伝染病「テングス病」をはじめ、数種類の病気と、その治療方法が小さな頭の中にぎっしり詰まっている。
「子どもたちから教わることが多かった」と、証言する大人たちは多い。
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季節の移り変わりとともに桜と過ごしてきた日は、自然の偉大さを実感する瞬間や人との出会いのきっかけを作り出している。
「今まで手を伸ばしても届かなかった枝に手が届いた。桜も私も一緒に成長したんだね」「桜って、見る人を皆笑顔にしている。私の桜も早く咲いて、皆に笑顔を与えてくれれば」竏秩B発見したこと、うれしかったことは毎日のように日記に書かれている。
「生き物が生きる力を感じ取り、自然のすごさを学んでいる。桜を好きな人に悪い人はいない。すてきな人たちとの出会いのなかで子どもたちは成長している」(北條教諭)
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勇組の活動は学校内から市内全体へと広がる。昨年6月には、国土交通省・天竜川ダム統合管理事務所から美和ダム(長谷)周辺にある桜の「桜守」に任命された。
来年3月には、長谷非持の諏訪神社や高遠城址公園などで採取した、エドヒガンザクラの種から育てた苗木をダム周辺に植える予定だ。
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桜のシーズンになると多くの人が樹下に集まり心を和ませる。春になれば当たり前とも思える光景だが、児童たちにとって、思いはひとしお。きれいに咲いた姿に笑顔がはじける。