藍綬褒章の北原久爾さん(72)
調停委員功績で
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「光栄ではあるが、ほかにりっぱな調停委員がいっぱいいるのに、私がもらっていいのかというのが正直な気持ち」。
34年、駒ケ根市下平に生まれ、中央大学法学部を卒業、18年間の銀行勤務の後、家業の酒造会社「長生社」を継ぎ、現在も社長を務める。
調停委員には84年4月に任命され、3月31日まで22年間務めた。 「委員にと話しがあった時は、若かったが、父親(宅爾さん)も委員だったので、ある程度、役割などを理解しており引き受けた」
調停委員は申立人と相手方との間に立ち、双方の話しを聞き、話し合いでの解決の糸口を探し、仲介する役割。長野地裁伊那支部には調停委員は35人おり、北原さんは民亊と家事の両方を受け持った。
「担当した中で、1番多かったのが離婚調停。母親と別れて暮らしている小学生が、裁判所の控え室で、久しぶりに母親に会い、抱き合って泣いていたことが今も目に浮かぶ」。
調停委員になりたての20年前と比べ「離婚に対する認識が変わった。一言で言えば、離婚は恥かしいことでなく、何でもないこと、『ばついち』はステータスと考える若い人さえいる。20代-30代の離婚は子どもがいても、幼く、離婚の意味さえ分からない。親の離婚は子どもにとって至極迷惑、子どものことを考えてほしい」と訴える。
次に多いのは遺産相続。「申立人も相手方も高齢者が多く、積年の恨み、つらみが出て、妥協の余地がない。全相続の中で、調停申立は一握りと少ないが、それだけに深刻なケースが多い」とか。
調停委員は法律の専門家でなく、指示したり、命令する立場でなく、社会の常識をものさしに、話し合いをすすめる役目「それだけに、難問が解決するとほっとする。22年やってきたが、特別難しい仕事とも思わないが、人生の裏側が分からないとできない仕事」。
本業の酒造では、純米酒1本に切り替え、「信濃鶴」ブランドのほか、今年から厳選素材による「桜の下で」を販売。好評とかで顔をほころばす。
「信濃鶴の伝統を大切に、酒本来の姿を守りつつ、新しいものにもチャレンジしていきたい」。妻と長男夫婦、孫の5人暮らし。