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彫塑歴40年余
南箕輪村 小倉孝一さん

彫塑作品の内から湧き出る生命感を感じたい

彫塑歴40年余<br>南箕輪村 小倉孝一さん

 「彫塑をやってると夢中になる。何もかも忘れてね」
 自宅には、これまでに制作した立像や首の作品が所狭しと飾られている。
 美しいものを見ること、絵を描くことが好きで、教員時代は美術研究会によく出席していた。最初は絵を描いていたが、ある時、彫塑作品の少女の首を見て強くひかれた。「見るものに訴える生き生きとしたものを感じた。立体のほうがおもしろいぞと思って…そのときが分かれ目かな」。彫塑の会に入会。粘土を入れた重いリュックを背負って電車で通い、勉強を始めた。
 「見たり、聞いたり。何回作ってもうまくいかないんだよ。一生懸命作るんだけど、間違えたものは後から気付くんだよね」。熱心に制作を続け、彫塑との出合いから40年余が過ぎた。
 「彫塑は量感、重みが魅力」。石こう像とブロンズ粘土による2つの手法で、児童の首や女性の立像を制作する。首は人間性がにじみ出る、立像は動きや流れ-とそれぞれ異なる魅力があるという。
 「モデルからにじみ出る人間性、人柄を自分がどう感じ、どう表現するか。モデルの生き方が表情、顔にあると思う。形だけでなく生き生きとしたその人のなりを量感で出す。そこにバランスがとれれば美しい作品になる」
 鼻だけを一生懸命作っても作品に生命は宿らない。全体の流れと力関係が一緒になって初めて美しさが出るのだという。
 彫塑にはデッサン力が必要で、これまでにデッサンしてきたスケッチブックが、部屋に高く積み上げられている。物を見る目を養うためでもあるが、「例えば田の水に山が映っていたら、うんと美しさを感じる。これを絵に描いたらいいなと思う」と、楽しみでもある。
 楽しみは、彫塑だけにとどまらず、書道、ハーモニカ、マレットゴルフなどいろいろある。一つひとつは異なる趣味のようでも、すべてはつながっている。「チャンスがあれば取り入れる。何をやるにも勉強しないといけないけど、せっかく縁があって好きならやってみるか、とね。やれば自分が向上し、自分がうれしければさらに感動し、いい心持ちになる。自分が心よい生き方ができる」と考えるからだ。
 伊那美術協会員で、県展などに出品し、各種の賞を受賞している。近年は出品目的ではなく、自分が今まで培ってきたものを出して作りたいという心境だという。
 「知らん間に40年経った。人に見せるようにやってきたけど、それではうまくいかない。人がなんと言おうと、基準が自分の心にないとだめ。外に基準を置いたり、気を取られていたら、それはまね。自分が出ない。自分が好きでやるから好きなようにやるのが一番と思えてきた。デッサンして見たもの、感じたものを表現できたらと思う」
 年年歳歳、咲く花を見て心動かされる。新しい気持ちになる。「心動かされるのは楽しいじゃんかね。それが彫塑にも通じるんじゃないかね」。そう言って窓の外を見つめた。
(村上裕子)

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