腹話術で安全講習 井川朋香さん
駒ケ根市中沢
夫である中沢駐在所の井川久巡査長とともに子どもやお年寄り向けの交通安全教室などに年30回以上も出向き、腹話術の特技を生かした楽しい講習を行う。子どもたちの人気者、人形の「ケンちゃん」を生き生きと操って「横断歩道では手を上げて渡るんだよ」「どうして?」などと軽妙な掛け合いを演じ、子どもたちを笑わせながら身を守ることの大切さを夫婦二人三脚で教えている。
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喬木村生まれ。高校卒業時に友人とともに県警の交通巡視員採用試験を受験して合格。駐車違反の取締りなどの業務に当たった。
腹話術を習得したのは「趣味ではなくて仕事のため。交通安全教室で使うために覚えさせられたんです」。発声の練習を始めて何とか声が出るようになると「練習しているより場数を踏んでどんどん慣れた方が上達が早いから竏秩vという上司の意向で早速講習会に派遣された。
「最初から頭が真っ白でパニック状態! 腹話術は一人二役を演じるのに、人形と自分の声の使い分けができなくなって、もうめちゃくちゃでした」
救いだったのはキラキラした瞳で食い入るように見つめる子どもたちの楽しそうな顔と笑い声。「下手で失敗ばかりしていても子どもたちはこんなに喜んでくれる…。そう思うと『もっと頑張らなくちゃ』という気持ちになれました」
懸命に練習を繰り返し、夢中で経験を積むうちに努力のかいがあってめきめきと上達。子どもたちの反応を見てアドリブを入れたり、人形を繊細に操って表情を表現したりする余裕も持てるようになった。しかしその後、久さんと出会い、結婚して退職竏秩B腹話術との縁も切れたかにみえた。
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数年後、駐在所勤務となった久さんが地域の講習会などでたびたび講師を務めるようになった。「警察官が話をするだけでなく、人形を使った腹話術も見せた方が子どもたちは注意のポイントをしっかり覚えてくれるんじゃないか」という久さんの勧めで腹話術を再開。久しぶりで不安もあったが、体は習い覚えた技を忘れていなかった。
「でもやっぱり失敗はありました。人形に『ケンちゃん』と話しかけるところを、いつも家で呼び慣れている自分の子どもの名前でうっかり呼んでしまって竏秩Bしかも自分ではちっとも気がつかず、後ろで見ていた夫が両手を大きく振って『違う、違う』と大慌て…。子どもを持った結婚後ならではの失敗ですね」
腹話術は疲れる。20分が限度で、講習が終わると強い脱力感に襲われるという。「でもやりがいと満足感はすごく大きい。それに、子どもたちが町で会った時に『ケンちゃんのお母さんだ』と言って声を掛けてくれることがとてもうれしいんです」
(白鳥文男)