休耕田でハスを栽培 茅原英男さん(69)
子どものころ楽しんだ光景いつまでも
伊那市山寺区前橋町のJR飯田線沿いに広がる、休耕田のハスの花が見ごろを迎えている。白や赤、ピンク色の直径20センチの大輪の花が咲く、8・2アールの肥よくな土地。花の香り漂う田んぼには、メダカやトンボもいて、見物人が集まる、街中の憩いの場になっている。
「尖った錐(きり)のような芽を伸ばすと、蕾(つぼみ)を膨らませる。季節を感じて花を咲かせる生物の生命力に元気をもらう」
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ハスの栽培に興味を持ったのは、1996(平成8)年元旦のことだった。茨城県土浦市の友人が毎年、送ってくるレンコンに舌鼓を打ちながら決意した。早速、友人から取り寄せたレンコンの苗8株を自宅東側のほ場の一角へ植えた。
2年後には、水田の生産調整対策によりすべてを休耕田に。再び、友人から取り寄せた苗に園芸品種などを加え、全面に栽培し始めた。
ハスの地下茎はレンコン。その繁殖力は驚くほど旺盛で、1年で田一面に広がった。花茎は2メートル近くまで伸び人の背丈を越え、深緑色の葉は直径50センチと顔を覆う大きさ。季節になると次々と花が咲く様子は毎年、感動するという。
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00年ごろから、地元の新聞やテレビで取り上げられるようになると、見物人が鑑賞するために訪れ始めた。「きれい」「珍しい」などと、近くまで寄って写真を撮ったり、花の匂いをかぐ人たちの存在は、一人で花を見て楽しむ以上にうれしいことだという。
「励みになります。皆さんに感動してもらえると、毎年ハスづくりに手が抜けない。今は、この仕事が生きがいになってますよ」
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家庭排水の出る時間帯を避けての毎日早朝の水の取り入れ、鶏糞を使った有機肥料の施肥作業竏窒ネどにより、休耕田で栽培するハスは元気が良い。毎年、粘りのあるおいしいレンコンが収穫できることも喜びだ。
水中ではメダカ、フナ、タニシが越冬し、季節がくればシオカラトンボやカエルが産卵する姿も見られる。魚や水生昆虫を狙って現れるシラサギ、カワセミなどの存在もある。
一つのハス田の中で、生物たちの生態系が構築されている。
「幼少のころ遊んだ小川の環境がそこにはある。市街地化が進む中に残った水田には、子どものころ楽しんだ光景が再現されている。思い出がいつまでも続くように、次世代の子どもたちに楽しんでもらうことができればうれしい」
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夜明け前から開花し始め、日の出ごろには満開となり芳香が漂い、午後には花びらが閉じて3日で散る…。そして、次の年には再び大輪の花を咲かせるハス。
生命力みなぎる休耕田の周りには、水生昆虫、鳥。そして、かれんな花を見ようと、毎年訪れる見物人竏秩B
しかし、一つ足りないものがある。それは3年ほど前から見られなくなったホタルの乱舞だ。
「えさとなるカワニナがいないからホタルが出なくなった。早く下水道整備が進み、水路がきれいになることを願っている。もう一度、ハス田にホタルが飛び交うように」