二極化する集落営農組織の発足(3)
課題は自給的農家の取り込み
旧伊那市内では、進行度に差はあるものの、各地区で検討委員会が早期に発足し、合意形成に取り組んでいる。一方、東部地区の高遠町、長谷地区は、これから検討委員会を発足させる段階。ほかと比べて進行が遅れている。現在、高遠地区で4組織、長谷地区で1組織の発足を目指しているが、面積規模の確保ができるかを今後の話し合いで見極めていく。麦の作付けがある地区は、07年度産麦のまき付けが始まる今年秋までに組織を発足させなければ07年度産麦の助成が受けられない。しかし、東部地区の場合、麦は一部法人しか作っていないため、水稲などの作付けが始まる来春を目途とした。
各地区の事情はさまざまだが、今後の営農組織を運営していく上では、共通する課題がある。
一つは、今回の制度の対象外である自給的農家や、麦・大豆などを栽培していない畑作農家を組織へいかにして取り込んでいくか。
上伊那の場合、自給的農家は年々増加しており、2000年の統計では総農家数の約25%弱を占めた。一方、農業就業者の高齢化は進んでおり、半分以上が65歳以上。75歳以上の農業者も多く、これらの人が農業を継続できなくなった場合、営農組織はその人たちに代わって地区内農地を耕作していかなければならない。しかし、加速度的な高齢化の進行とともに組織内の作業農家が減っていけば、一人当たりの作業面積は大きくなり、集約耕作地の管理に困窮する地区も出てくる。現に西箕輪は、地区内の遊休農地を営農組織に集積することを考えているが、組織に参加する農業者だけでは担え切れない状況にある。
そのため、自給的農家などを組織内に取り込み、何らかの形で組織の作業を担ってもらうことが人材確保の鍵。自給的農家などは制度に伴う助成の対象ではないため、恩恵の薄さが組織参加を妨げているものの、現在ほとんどの地区が、田植えや稲刈り機などを共同利用しており、これらの協業組織は、全て集落営農組織が吸収することになるため、JA上伊那の担当者は「制度に伴うメリットはないが、今後も機械の共同利用を続けたい農業者は組織に参加する必要がある。かなりの農業者の参加を得られるのでは」と話す。
また、作業にかかる経費の配分問題もある。今のところ、各地区の営農組織は、課せられている要件である「経理の一元化」を、「出荷の一元化」という形で実現しているにすぎない。そのため当面は、作業にかかる費用は個々人で負担し、収量に応じた収入を得られ、従来とほとんど同じやり方で農業を続けることができる。しかし、これらの営農組織は5年以内に農業生産法人になる。そうなると、より厳密に「経理の一元化」を実行していかなければならず、利益も出来高でなく、作業負担によって配分されるようになる。
個人の努力によって単位面積当たりの収量が増えた場合、増収分に対し、ボーナス的に賃金を支払うことはできる。しかし、同等の面積規模の農家に必要経費を配分する場合、努力分にかかる費用が他農家より多くても、それを事前にどう評価し、その分の費用を配分していくかは今後、それぞれで考えていかなければならない。
やる気のある農業者の賃金支払い枠を確保することも必要となる。今回の制度は、余った農地を意欲ある農業者に集約し、作業に応じて賃金支払いをしていく。そのため、一定期間しか作業が無く、賃金を支払える期間が限定的な水稲な麦、大豆だけでなく、年間を通して作業が必要となる園芸作物などにも取り組む必要がある。