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『朝の学舎』この一年
対談 武田徹・馬塚丈司昨年4月にスタートした『朝の学舎』は、未来世代を担う子どもたちへのメッセージとして、天竜川水系を舞台に土や水、森などに深く関わっている皆さんと子どもたちを追いかけてきた。
天竜川河口の砂浜で産卵するアカウミガメ(絶滅危惧種)の卵にさわり、小ガメの放流を体験(昨年9月放送)、伊那谷に伝わる養蚕文化と技術を伝承する唐澤さん夫妻と西箕輪小学校の子どもたちの触れ合い(昨年10月放送)、一滴の水の中に生きる珪藻との出会い(昨年4月放送)竏窒ネど、伊那谷の子どもたちが心と体で感じたこの一年。この豊かな自然の恵みの中で、それを感じ続けることができる未来であってほしい、また、次の世代、また次の世代へとつないでいってほしい、という願いを、それぞれの番組の中で、先生役の皆さんに伝えていただいた。
今回の朝の学舎は、天竜川河口でアカウミガメや砂浜の環境を守る活動を20年以上前から続けているサンクチュアリNPOの馬塚丈司理事長をゲストに迎え、ナビゲーター武田徹とともに、21世紀を生きる子どもたちへのメッセージを改めて語り合う。 -
自然とじょうずにつきあう日本の家
日本の伝統的な家屋は、土壁、木、障子(紙)茅葺き屋根など、自然素材で囲まれていた。土も木も紙も、それぞれ呼吸し、湿気を調節する。そうした自然の呼吸とともに、家があり、その中で四季折々の暮らしがあった。中でも障子は、破れるとその場所だけを補修したり、年末には家族総出での障子の張り替え作業など、その家族の暮らしぶりに密着した存在だ。
日本の伝統様式を残しながらも、最近では洋風な住宅様式が主流となり、障子や畳を使った和室が一室もない住宅も増えている。
今回の朝の学舎は、高遠小学校4年生が、障子貼り体験を通して、自然とじょうずにつきあってきた日本の家屋について学ぶ。
障子貼りの舞台は、伊那市高遠町の『進徳館』。ここは、日本の近代教育の基礎を築いた伊沢修二をはじめ、優れた人材を輩出した高遠藩の藩校として知られる貴重な建物で、1860年に開校された。茅葺き屋根、障子、濡れ縁など、当時のままの姿で保存されている貴重な建物だ。今回は、特別に許可を受けて、高遠小学校の子どもたちが進徳館の障子を貼りかえる体験をした。 -
天竜川上流を訪ねて
天竜川の源流諏訪湖。ここには、冬になると遠くシベリアからコハクチョウが越冬のために飛来する。コハクチョウは、春、5月頃から産卵し、一ヶ月ほどでヒナが孵化。9月の末頃、シベリアが厳しい寒さの季節を迎えると、沼や川が凍りつき、エサを探したり、泳いだりできなくなるため、日本を目指して約4千キロの空の旅が始まるのだ。 こうして、北海道の湖などで羽を休めながら、その一部のコハクチョウたちが諏訪湖にやってくる。
諏訪市在住の珪藻研究者飯島敏雄さんによれば、コハクチョウたちが暮らす北シベリアの湖と諏訪湖には、同じ種類の珪藻が存在することが確認されており、「コハクチョウのエサの中に含まれていた珪藻が、糞などを介して運ばれたもの」(飯島さん)と推測されるという。
天竜川源流の水は、コハクチョウといういきものを通して、世界の水環境とつながっていると言えるだろう。
また、天竜川が太平洋に注ぐ河口の砂浜には、絶滅危惧種アカウミガメが産卵に訪れることが知られている。アカウミガメたちは、天竜川が運んだ砂に新しい命を託し、孵化したアカウミガメたちは、遠く赤道直下まで太平洋を移動し、やがて20年後に再び同じ砂浜に産卵にやってくると言われている。ここでも、アカウミガメといういきものを通して、世界にその環境がつながっている。
伊那市新山小学校では、約1年前、珪藻研究者飯島敏雄さんを迎えて、学校近くにあるハッチョウトンボが生息する湿地の水を調べる授業を開いた。その授業の中で、新山には貴重な水環境があり、日本でも珍しい珪藻が存在していることを確認している。そこで、新山小学校では昨年夏、その湿地の水がやがてたどりつく天竜川河口へ、アカウミガメの卵に出会う旅に出かけ、その貴重ないきものたちの存在と自分たちのふるさとがつながっていることを知った。
そして、この冬、自分たちのふるさと新山から天竜川を上流にたどり、諏訪湖の鳥たちに出会う旅に出かけた。 -
大地の恵みにありがとう
今年もあとわずか。この一年、どんな実りがあっただろうか。春から土を耕し、季節や日々の天候の折々に、作物の成長を感じながらの暮らしが当たり前だった頃には、秋の実りは、大地の恵みに感謝する実感として受け止めていただろう。しかし、暮らしが少しずつ土から離れ、大地の恵みを実感する機会は少なくなってきたようだ。
宮田村公民館が主催して、春から展開してきた「われら、かかし隊」は、そんな大地からの恵みを親子で実感しよう、昔の人たちの暮らしを実感してみよう竏窒ニ始まった。地元で農業を営む先達や、昔ながらの手作りを大切にしている先達の皆さんを「かかし協力隊」としてお願いして、親子で畑や田んぼの作業を体験し、季節と作物の成長を見守り、この秋、実りを迎えた。
今回の朝の学舎は、この「われら、かかし隊」の収穫の様子を中心に、親子で受け止めたさまざまな実りを追った。 -
おいしいお米がやってくる場所
伊那谷は、実りの秋から冬支度の季節を迎えようとしている。田畑での収穫のほかにも、山に入ればきのこなど、さまざまな恵みを感じることができる季節でもある。古くから、こうした恵みに感謝して、収穫祭などがおこなわれ、次の恵みへの祈りを捧げてきた。豊かな大地があるからこその恵みを体感することができる暮らしがあった。
今回の朝の学舎のテーマは「実り」。伊那市美篶小学校5年生が、米を収穫し、味わう体験を追った。 -
蚕が糸になるまで
養蚕農家唐澤芳蔵さん・幸子さん 伊那市西箕輪小学校3年生かつて伊那谷は、養蚕が盛んな地域として知られていた。しかし、現在上伊那の養蚕農家は11軒、伊那市内では2軒となった。
農家にとって養蚕が貴重な収入源だった時代、家の中で蚕を飼い、家人と寝食を共にするような暮らしの中で、「お蚕様」と呼んで大切に育てていた。土壁、2階建ての養蚕農家独特の建築は、伊那谷のひとつの風物詩として、今では貴重な風景となっている。
今回の朝の学舎は、伊那市西箕輪小学校3年生が、地元西箕輪地域で養蚕農家を営む唐澤芳蔵さん幸子さん夫妻を訪ね、蚕から繭、そして糸になるまでを体感した。 -
天竜川 いのちの鎖
伊那谷の中央を流れる天竜川は、諏訪湖から河口まで約213キロ。中央アルプスや南アルプスの清流と合流し、人々の暮らしの中を流れ、遠州灘から太平洋へ注ぐ。
台所からの排水、工場排水、農地からの浸透竏窒サの天竜川の上流に暮らしている私たちの日々の暮らしは、全て下流へとつながっている。森の栄養分は川を通じて海に注がれ、魚のいきものたちを育む。生きている川でなければ、そのいのちの栄養分を下流に運ぶことはできない。
天竜川河口に広がる砂浜は、絶滅が心配されるアカウミガメの産卵地。天竜川が運ぶ砂がこの砂浜を形成してきた。上流に住む私たちが、このアカウミウガメの未来に大きく関わっていることは、言うまでもない。
伊那市新山小学校がある新山地域は、世界一ちいさなハッチョウトンボのふるさととして知られている。ハッチョウトンボも、一定の自然条件のもとでなければ育まれない貴重な生物だ。今春、珪藻研究者飯島敏雄さん(諏訪市在住)を迎えて、新山小学校で野外授業が開かれた。その授業の中で、ハッチョウトンボを育む水の中を観察し、そこに日本一大きな珍しいクチビルケイソウという珪藻の存在を確認した。ハッチョウトンボの幼虫が餌にしているミジンコは、この珪藻をエサにしている。つまり、このクチビルケイソウが生き続ける水環境を保つことが、ハッチョウトンボを守ることにつながるのだ。
この野外授業での観察で、貴重な珪藻の存在を知り、その水環境が、新山地域を流れる新山川、三峰川を経て天竜川につながり、その先に広がる砂浜で産卵するアカウミガメにつながる竏秩B
「天竜川河口に行って見たい」「アカウミガメの産卵を見てみたい」。新山小学校の子どもたちの中で、そんな気持ちがふくらみ、7月末、親子で天竜川河口の砂浜へ出かけることになった。 -
炭とともに暮らす~山のいとなみのなかで~
里山に囲まれた伊那谷では、薪や炭を暮らしのさまざまな場面で利用してきた。薪や炭の材料を調達する里山を「薪炭林」(しんたんりん)と呼び、山と暮らしが密接な関わりを持っていた時代は、そう昔のことではない。
しかし、化石燃料の普及、生活スタイルの変化などにより、私たちの暮らしは山から少しずつ遠ざかり、今では、家庭の中で炭を利用する場面はほとんど見られなくなった。
一方で、化石燃料の燃焼によって大気中の二酸化炭素の濃度が上がり、地球温暖化を加速させていることが懸念される中で、燃料としての炭が注目されはじめている一面もある。炭の原料である木は、大気中の二酸化炭素を吸収して育ったものであり、炭を燃やすことで放出される二酸化炭素の量は、もともと大気中にあった量であるため、地球温暖化を加速することはない竏窒ニいう理由からだ。さらに、炭は、有限な化石燃料とは違い、木を育てることによって再生が可能な資源であることも、注目される点である。
今回の朝の学舎は、伊那市長谷で、炭焼きを中心とした自給自足の暮らしをしている伊東修さんを、長谷小学校4年生が訪ねた。焼いた炭を窯から運び出したり、次に焼く炭の材料を、力を合わせて窯に詰めたりする作業を通して、炭との暮らしを体感した。 -
【朝の学舎】森の木漏れ日 ≪森の空を見上げてみよう≫
伊那市の西箕輪小学校は、周囲を豊かな学校林に囲まれている。すべての学級に木の名前がつけられ、休み時間になると学校林の中に設けられたアスレチック施設に子どもたちが集まってくるなど、日常的に森や木を近くで感じることができる環境だ。
前回の朝の学舎で、4年生のとち組・きり組の子どもたちは、通学路の途中にある有賀建具店を訪ね、自然の木のすばらしさを感じる授業を体験した。実際にカンナで木を削ったり、有賀さんが製作した64種類もの樹種を使った箪笥を見たり、五感で木を感じた子どもたち。その後、学校林にある樹木に興味を持ち、木の葉っぱや肌を観察して、次第に森への興味をふくらませていった。
そこで、今回、森づくりの実践者・内田健一さんを迎え、森の授業を受けた。 -
【朝の学舎】木は自然の贈り物
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生きている水 珪藻からのメッセージ
第1回目の『朝の学舎』に登場するのは、珪藻研究者の飯島敏雄さん(諏訪市在住)と伊那市新山小学校の子どもたち。水の中に生きる小さな珪藻を出発点とした食物連鎖や、珪藻が生きている水の環境、さらに水源から河口まで水を介してつながってゆくさまざまな自然の営みについて、飯島さんが子どもたちに語った。
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「朝の学舎」~巡りきし時空(とき)のきざし~
昨日より今日が、今日より明日が、より幸せな社会になると、信じて疑わない時代がありました。物やお金は増え続け、生活はもっと便利になり、昨日よりも今日、今日よりも明日の方が、人間はきっと進歩しているに違いない、誰もがそう思ってきたのではないでしょうか。けれど、私たちが進んできた道のりは、これでよかったのか。ほんとうのところ人間は進歩してきたのでしょうか。
今の世の中、私たちは今日を生きる価値観さえ揺らいでいるのに、自由とは名ばかりの競争にあけくれ、あるいは否応なく巻き込まれ、目先の利益を追うことにやっきになっています。そして、誰もが生きにくく、進歩の方向が、まるで見えなくなってしまったような気がします。
自分がいったい何者なのか、自分がいったいどこから来て、これからどこへ行こうとしているのか、よく分からなくなってしまったのは、いつ頃からでしょう。そもそも、そんな問いかけすら、しなくなってしまったのかもしれません。
今日を懸命に生きることは、大事なことです。でも、今、目の前にある世の中の歪みをこのままにして、次の時代を子どもたちに託していいものでしょうか。
時は巡りきました。私たちは何者で、これからどこへ行こうとしているのか、そして、100年後、1000年後に確かに続く明日のために今できることは何なのか竏秩B私たちはもう気づいていい時にきていると思います。その<兆し>を見つけるために、『朝の学舎(あしたのまなびや)』をスタートします。
番組では、その<兆し>に気づき、未来の子どもたちに何を残し、伝えるべきかを常に思いながら各分野で活躍している皆さんに登場いただき、伊那谷各地で『朝の学舎』を開き、学舎に集まった子どもたちにメッセージを伝えていきます。 -
田んぼが育むものたち